この時期に四万十川流域と四国カルストに咲く“秋の草花”の写真が届きました。

今回は、撮影された四万十市の杉村和男さんの解説付きです。

 

スズコウジュ(シソ科)

一属一種の日本特産種。林縁に生え、花はクリスマス(教会)の鐘を思わせます。写真では大きく見えますが、これは近接撮影によるもので、実際には小型で目立たない植物です。

(2012年10月6日撮影、梼原町九十九曲峠)

 

 

サラシナショウマ(キンポウゲ科)

四万十川流域では四万十町辺りから標高1000m程度の山地まで広く見られます。林縁、林内にはえ、冷涼な所になるほど個体が大きくなる傾向があります。花の部分をかじられている個体が多かったので、地元の人に聞いたところ、鹿が食べた跡とのこと。鹿もグルメになっているようです。

(2012年10月6日撮影、梼原町韮が峠)

 

 

カワミドリ(シソ科)

この植物について特記すべきことは、高知県内における唯一の自生地が四万十川流域(津野町)にあるということです。花は6月から10月にかけて長く咲きつづけ、特に香りの良い植物であり、四万十川の代表的な植物として、保護、繁殖も兼ね、美化、緑化などに幅広く活用してはどうかと思います。

(2012年10月6日撮影、四国カルスト)

 

シコクブシ(キンポウゲ科)

「ブシ」は「附子」と書き、トリカブトの意。つまり四国に産するトリカブトのことです。四万十川流域では四国カルストだけに見られ、石灰岩地を好む傾向があります。猛毒植物としてよく知られていますが、食べなければ大丈夫で、花には圧倒的な美しさがあります。

(2012年10月7日撮影、四国カルスト)※ストロボ使用

 

 

シラネセンキュウ(セリ科)

名は、日光の白根山で発見され、薬用植物のセンキュウに似ることによります。四万十川流域では、深山の渓流沿いで普通に見られます。同じセリ科のシシウドほど大きくはなりませんが、それでも高さ80センチ前後にもなる大型の植物。

(2012年10月7日撮影、四国カルスト)

 

 リンドウ(リンドウ科)

四万十川流域では花期の遅い植物で、この花が咲き始めると、そろそろ内陸部の花はシーズン・オフになります。本来の花期は11月頃で、写真のものは、少し気が早いようです。花は日が当たらないと開きません。学名のゲンチアナはギリシャ神話のゲンティウス王に因み、同名で市販薬にも幅広く調合されています。

(2012年10月7日撮影、四国カルスト)※ストロボ使用

 

ヒメヒゴタイ(キク科)

四万十川流域では、四国カルストのような山地草原に多い植物。二年草で、羽状に切れ込んだ葉を四方に広げて年を越し、開花、結実すると枯死します。上部の葉には切れ込みがありません。高原に点々と花が咲く様は宝石を散りばめたようであり、花の美しさにおいては別格のようです。

(2012年10月7日撮影、四国カルスト) ※ストロボ使用

 

ツルニンジン(キキョウ科)

林縁に生える、つる植物で、他の植物に絡みつきます。別名、ジイソブとも呼ばれて、これは花の模様を祖父さんのそばかすに例えたものです。これに対して、バアソブもあり、葉に毛のあるのが特徴です。四万十川流域では、里山から標高1000近くの山地まで、広く見られます。

(2012年10月7日撮影、四国カルスト)

 

ツリフネソウ(ツリフネソウ科)

水湿地に生える一年草で、一年の間に、発芽、開花、結実後、枯死します。そのため、ちょっとした環境の変化ですぐに姿を消してしまいます。移植も困難です。トンボ公園の秋を代表する植物で、四万十川流域ではこのほか四万十町、中土佐町で見られます。花はよく群生して水辺を彩り、見事な景観になりますが、トンボ公園はもとより、この花を観賞に訪れる人が少ないのは、とても残念に思います。

(2012年10月8日撮影、四万十市トンボ自然公園)
※ストロボ使用

 

シモバシラ(シソ科)

四万十川流域では四万十市から四万十町にかけて見られ、四国カルスト(梼原町、東津野村)では確認していません。名は地上部が枯れた冬に、根元に霜柱ができることによります。四万十市西土佐黒尊ではキオンと共に、鹿が食べないため大繁殖しています。

(2012年10月8日撮影、四万十市トンボ自然公園)

 

カリガネソウ(クマツヅラ科)

絶滅危惧種には選定されていませんが、四万十川流域では稀な植物です。独特な形と美しい色が印象的な花で、四万十町に群生地があって、四万十市立中央公民館館花壇にも植えられています。花とは対照的に、葉には悪臭があります。

(2012年10月8日撮影、四万十市トンボ自然公園)

 

 

コシンジュガヤ(カヤツリグサ科)

水湿地に極めて稀に生える一年草。全体に小さく他の草と混じって、なかなか目につきにくい植物でもあります。そのため、写真は超近接撮影しています。花は地味ですが、実になると名前のとおり真珠のようになり、はっとさせられます。

(2012年10月8日撮影、四万十市トンボ自然公園)

 

 

ミズネコノオ(シソ科)のブーケ 

農薬汚染の無い稲刈り後の水田に出現する一年草。このような水田には他に、ミズワラビ、シソクサ、マルバノサワトウガラシなども生えてきて、貴重な植物の宝庫になります。本種の見られる水田は少なくなりましたが、撮影場所では一面に咲いていて、ブーケのようになっていました。

(2012年10月8日撮影、四万十市船の川山山麓)

 

タニジャコウソウ(シソ科)

絶滅危惧種には選定されていませんが、四万十川流域では稀な植物です。ジャコウソウと比べて、標高の低い山地に見られる傾向があります。名は渓流沿いに生え、全草に香水の原料にされる強い麝香の香りがあることによります。この植物の生えている所には他にコミヤマスミレなども多く、コケ蒸していて、気持ち良い森林浴ができます。森林の指標となるような植物と考えて良いと思います。

(2012年10月8日撮影、四万十市船の川山)