四万十川河口域の冬から早春の風物詩と言えば、天然スジアオノリを収穫する川漁師の姿や川に網を張って行うアオサノリの養殖だが、ここ何年もまともに獲れていない。去年は、四万十川の支流・竹島川で明るい兆しも見え、河口の川漁師が天然のスジアオノリを収穫する姿が見られた。ただ、かつての生産量にはほど遠い。

安定的に採算ベースに乗るだけの何らかの水揚げがなければ、当然、川漁師達は生活の糧を得るため、他の仕事を探さなければならない。まったく違う業種に進む人もいれば、少しでも川漁師としてのキャリアを活かそうとする人もいる。

四万十市竹島に住む山崎清実さんは、絵美さんと共に夫婦でアオサノリ、シラス、鮎、エビなどで生計を立てていた専業川漁師だった。過去形になっているのは、絵美さんが、現在お勤めをしているからだ。清実さんは「そりゃ、(毎月安定した収入が入って)助かるぞ!お前も早う嫁さん見つけえ!」と冗談交じりに笑う。このセリフは、清実さんの一回り下の亥年生まれの山﨑明洋さん(二人はいとこ)に対して向けられたものだ。

川漁師、川から陸(おか)へ

今回、清実さんと明洋さんから「アオノリの陸上養殖が軌道に乗りそうだから一度見に来てほしい」と依頼があり取材させていただいた。最初は軽い気持ちで取材に参上したが、話を聞くうちに2人の覚悟にあてられ、成功を願わずにはいられない気持ちになった。

山﨑清美さん(左)と山﨑明洋さん(右)

「漁師が陸(おか)にあがってやりようぞ!」とは清美さんの言葉だ。川漁師は川で漁をするのが本来の姿であるが、ノリの安定的な収穫が見込めない以上、漁師が川から陸に上がり始めるのは自然な流れだ。こうした流れがいつまでも続くと、これまで培われてきた技術や経験が受け継がれていかず、衰退・消滅し兼ねない。次善の策として陸上養殖に形態を変え、漁師自らが手掛ける四万十産のアオノリが市場に供給されていく事は大変喜ばしい。

山崎家には、大切にしているノリの洗浄技術がある。洗いに使う水は、わざわざ滅菌した海水で、塩分濃度も一定にしたものを使う。この作業を適当に済ます人もいる中で、独自の機械を開発し、丁寧に洗っている。それは、良いものを売らないといけないと考えているからだ。そんな山崎家の陸上養殖のアオノリも多くの人に愛されていくだろう。

背水の陣で挑む

二人は陸上養殖を始めるにあたって、銀行から500万円以上の融資(つまり借金)を受け、設備を導入した。全て自己負担、補助金はなしだと言う。また、陸上養殖を回していくためには、毎月、種となるアオノリの仕入れ(45000円)や、生け簀内に酸素を送り続けるための電気代等のランニングコストが発生する。これは、アオノリが思い通りに成長しようがしまいが、売れようが売れまいが、毎月発生する。

設備を導入するにあたり、基礎石の設置やタンクの組み立て等、出来るところは自分達で行い、出来るだけ初期投資がかからないように努力したが、コロナ禍やウクライナ戦争、円安の影響による物価高がこたえたそうだ。空き地に新規で引いた水道や電気の資材も軒並み上がったそうだ。

山崎さん達は、アオノリの種を月に約5~6万粒仕入れ、地下から汲み上げた海水を貯めた生け簀に注ぎ込む。1週間毎に成長に応じた生け簀に移動させ、4週間で収穫できるサイズになる。ひと月に乾燥重量で5kgの生産量を見込んでいる。キロ単価をお聞きしたところ、20000~30000円以上で販売出来れば…と答えてくれた。

種を1つ目のタンクに移す明洋さん

目下の課題は「販売先の新規開拓と情報発信」だ。取材させていただいた12月23日時点では、販売先は「道の駅よって西土佐」のみで、これから開拓していかなければならないそうだ。今後、商談会にも積極的に出向き、新規開拓していきたいと意気込んでいる。「SNSで情報発信もしていかんといかんがぞ!」と清実さんが明洋さんにハッパをかけていた。

山崎さん達の想い 「組合のために…」

陸上養殖に参入するにあたって、山崎さん達には自分達が儲けようというよりも、別の想いがあった。まずは、「個人でもこれくらいはやれる」という事を示し、後に続く仲間を増やしていきたいそうだ。理想は今の10倍の規模になるまで。そうするとアオノリを必要とする大手メーカーにも商談が可能になるそうだ。一番深いところにあるのは、「 この陸上養殖が未来の組合のためになるようにしたい 」という想い。お二人は四万十川下流漁協の理事でもある。明洋さんは、30代で組合長を務めた事もある。その時から「水揚げがないと、組合員が大変。どうにかならんか、どうにかしてあげたい。付加価値を上げる方法を考えている。」と話していた。

漁の経験がない個人でも出来るものか聞いてみたが、それは可能だそうだ。高知大学が支援している世界最先端の陸上養殖の技術・ノウハウも確立されている。山崎さん達の後に続きたい方、情熱を持って取り組める方は、お二人に声をかけてみてほしい。消滅危機にある四万十産のアオノリ復活に向けた意義あるプロジェクトだ。

取材を終えて…

亥年生まれのお二人が猪突猛進でここまで漕ぎ着けてきました。応援せずにはいられない状況が少しでも伝われば幸いです。道の駅などで山崎さん達のアオノリを見かけた時は、是非、買ってみてくださいね!「川が好きで、川漁を続けたい」というお二人を応援する事になります!清実さんがアオノリのおすすめの食べ方を教えてくれました。磯部揚げと厚焼き玉子に入れて食べるのが最高だそうです。是非、やってみてください!