四万十川の食はおもしろい。四万十川と暮らしてきた人々の生活が見えてくる。当財団の四万十川大人塾では、今年から食文化を伝える講座も行いたいと考えている。今回の清流通信では、食文化を伝える活動をしている人を通して四万十川の食文化を考えたい。津野山の伝統食を伝える活動を行う熊田敬子さんにお話を聞いてきた。

津野山で暮らす

熊田さんは、津野町の農村歌舞伎で有名な国指定重要文化財「高野の舞台」の近くに暮らしている。芸西村出身で高野には嫁いできたのだが、お義母さんからこの地域の料理を受け継いだ。敬子さんはもともと自然への関心が高く、ご主人が獲ったイノシシを捌くこともお手の物だ。

この地域の料理について、こう話してくれた。
「皿鉢も昔は一からお義母さんに教えてもらって全部手作りしよったがね。ここら辺の寿司は太いの。のりが一巻きじゃ足らんのよ。寿司は贅沢なものだから祝い事の時くらいたくさん食べてほしいっていうことだと思う。海苔巻きも昆布巻きもたまご巻きも全部太い。驚いたよ!」

 普段の熊田さんはとても忙しい方だ。地域活動から農業などを通して多くの人に頼られている。その一つに津野町食生活改善推進協議会会長職がある。同会は地域の健康のために食生活を指導する団体で、その活動の中に、伝統食を考え地域の人に伝える活動がある。

熊田さんが考える津野山の伝統食について紹介しよう。

*食生活改善推進協議会(略称:食改):食改では①子どもの食育、②働き盛りへのメニュー指導、③高齢者のフレイル予防など大きく3つのターゲットに分けた事業を展開している。他にも地元の小学校の家庭科クラブや朝食づくりの授業をはじめ、食に関する講演会講師も担う。新しい知識を得るために年4回の研修も行い、1年間の活動はぎっしりだ。

右:熊田敬子さん 左:食改仲間の氏原共子さん

津野山の伝統食

津野町は、やや海よりの葉山地区(旧葉山村)と、山間部の東津野地区(旧東津野村)から成るが、食材や調理の仕方にも違いがみられる。東津野の高齢者に子どもの頃食べていたものの話を聞くと、こんこ(大根の漬物)、わらび、ぜんまい、いたどり、ほしか(干し芋)、そば、こんにゃくなど。その季節に周辺で採れるものを食べていた。冠婚葬祭、神祭の時は、その季節にとれる地域の食材がふんだんに使われた豪華な皿鉢(さわち)料理が作られる。食感を柔らかくする、素材本来の味、旨味を引き出すために、何日も前から準備が始まる。お祝い事だからこそ手間を惜しまず、地域のものをできる限り美味しく食べようとした。皿鉢の一品一品に祖母から母へ、娘へと引き継がれてきた各家庭の味や技がある。

さば寿司、いなり寿司、昆布寿司、たまご寿司、こんにゃく、ずいきの白和え、ねぎの酢味噌和え、リュウキュウの酢の物、里芋の煮っころがし、ぜんまいの炒め物、イタドリの煮物、豆腐の梅酢漬け、干し大根の煮物、しばもち、味噌、漬物、梅干し・・・これらのものが、家庭の味として受け継がれている。中でも、山菜の利用法には山間部に暮らした先人の知恵が見てとれる。イタドリには痛みをとる薬草の役割と、ポリフェノールが豊富で葉をお茶にして飲む習慣があった。うどには、熱さましや痛み止めの効用があり、ずいきは血の薬と呼ばれ、産後によく食べられた。今のようにほしい時に食材や薬がすぐ手に入らないので、乾燥させて年中食べられるようにしただけでなく、食材の効用を食べ継ぎ、上手に活用してきた。

 伝統食とは、地域風土の中で脈々と食べ継がれる料理だ。時代と共に皿鉢の盛り合わせは変わるかもしれないが、この食文化を後世に伝えていく必要がある。

津野山の皿鉢料理 (食改より提供)

伝統食はややこしい!

 調理前に時間がかかるのは保存のためだ。昔は冷蔵庫がなかったので、その食品をいかに長持ちさせるのかも人の知恵だった。食べるまでがややこしい山菜の食べ方を紹介しよう。

ぜんまいを食べるまで。

ぜんまいは4月中旬から採れる代表的な山菜だ。採った後は3日間どこにも行けなくなるくらい手間がかかる。1日目は、採ってきたぜんまいの綿を取り除いて湯がく。ここに大きなポイントがあり、沸騰した湯で長時間湯がいてはいけない。そして干す。2日目は、繊維を断ち切るようにやさしく揉んで広げては干すを2~3回繰り返す。3日目も、2日目のように揉んで広げて干すを繰り返す。天候に気をつけながら干すが、乾燥具合によって干す時間も変わる。しっかり水分が抜けたら3年間くらい保存ができるが、4年目くらいから朽ちてきて、湯がいたときに繊維が広がるようになって美味しくなくなる。

 干したぜんまいを食べるのにも準備が必要だ。80度くらいの熱湯を入れたボウルに干しぜんまいを入れて、アルミホイルをかぶせて1日置く。戻っていなかったらお湯を変えて、硬さを確認し、硬いようならもう一度お湯につける。あとは水につけてアクを抜く。ぜんまいは油と相性がいいので、甘辛く炒めて食べると美味しい。フライパンにサラダ油をいれ、戻したぜんまいを炒める。油がなじんできたら、みりんと醤油を入れ、油揚げと一緒に炒める。砂糖を入れると硬さが決まるので、ぜんまいの硬さを確認し砂糖を入れていく。水分がなくなるまで炒めたら完成。

干しぜんまい(熊田さん作)
干ししいたけ(熊田さん作)
5年前のせいらん

その土地の恵みから生まれる食

 伝統食を、本や写真、インターネットの力で形だけ残すことはできる。しかし、どんな気候のどんな場所にいったら美味しい食材が採れるかなどの採る知識、味・食感を繋ぐには五感をフル活用させた方法が不可欠だろう。昔は、子どもの頃から大人と山へ行き、山菜や動物をとり、家で捌き、下ごしらえを行い、大人を手伝いながら自然と日常生活の中で覚えていくものだった。それが生活スタイルの変化でなくなってしまった。

熊田さんは今の伝統食についてこう語る。
「世代が変わったとき、この食文化が引き継がれるかわからない。若い人たちは、普段は街で暮らし、帰省した時に食べるだけで、作り方は知らない。そもそも作るのがややこしい。ぜんまいは私でも大変だもんね・・・。今は、スーパーに行ったら簡単に便利なものが何でも手に入る。手間暇が商品になってしまった。作り継がれてきたものが継がれなくなってしまった。しょうがないと思うけど繋いでいきたい。

あれもこれも残さなくて良いけど、手軽なものは残したい。小さくて簡単なもので良いから皿鉢を作れるようになってほしい。最近は、コロナのせいもあるけど、神祭の「おきゃく」そのものがなくなってきて、氏神様のお祝いを家庭でしなくなった。昔のおばあちゃんは「お神祭」と、わざわざ「お」をつけて言い、紋付の着物を着てお宮に行くほど氏神様を大切にしていた。」

 伝統食は、その土地の恵みから生まれる食である。特別に変わったものではなく、干し大根や干ししいたけ、ぜんまいにわらびなど、日本のどこの田舎でも食べられているもの。津野山でとれたものが津野山の人が食べてきたものだ。昔は今のように簡単に食べ物が手に入らなかった。だからこそ、昔の人はその土地の自然と神様を大事にしていた。今の私たちには手間のかかる料理を日常的に作ることは難しい。同時に、土地の恵みを知ることもなくなってきた。つまり、手間のかかる大変な部分に、自然とのつながりや知恵が受け継がれてきたのだと思う。

味、におい、色、触感、音を五感で感じて受け継いでいくものだから、一度なくなると取り戻すのは難しい。現代は食べるものがたくさんあって生活に困らないが、この先はわからない。土地のものを食べることは土地とともにいきること。だから、土地とともに生きることを繋いでいかなければならない。熊田さんの言うように、小さくて簡単なもので良いから引き継いでいけないか。まずは初心者に向けて、料理の方法、食材の扱い方を学ぶ場所が必要だろう。そこで、四万十川大人塾の登場だ。川ともに生きる文化継承はまさに「食」も重要なテーマである。熊田さんのような方の活動に期待しつつ、当財団でも大人塾を通じて伝えていく場をつくっていきたい。

おまけ 伝統食レシピ(津野町食生活改善推進協議会より)

①ずいきの白和え

材料(3~4人分)

・ずいき(乾燥したもの) 25g

・豆腐 1/2丁

・サラダ油 少々

☆ずいき用調味料☆

 ☆砂糖 大さじ1と1/2

 ☆しょうゆ 大さじ1と1/2

 ☆みりん 大さじ1/2

 ☆だしの素 少々

★豆腐用調味料★

 ★ごま 大さじ1

 ★砂糖 大さじ1弱

 ★塩 少々

作り方

①ずいき(乾燥したもの)をボウルにいれる。お湯を沸かし、泡がぶくぶくしてきたら、ずいき(乾燥したもの)にかける。そのまま3時間ほど置く。

②①を2㎝くらいの長さに切って、軽く絞る。

③鍋に油を入れて熱し、サッと炒め☆を入れて味がしみ込むまでよく炒め煮る。

④豆腐は湯通しして軽く絞る。

⑤すり鉢で★のごまをすり、④の豆腐を入れてすりながら、砂糖、塩などを味をみながらよく混ぜ合わせる。

⑥⑤の豆腐の中に③の味のついたずいきを入れて混ぜ合わせる。

(メモ:ずいきは、里芋の茎を切り取り、皮をはいで、天日で干し上げます。大きな茎は8~10㎝くらいに細くさいて使います。食べる直前に味付けしたらべたべたせずに美味しく食べられます。)

乾燥ずいき(熊田さん作)

②イタドリの煮物

材料

・イタドリ 300g

・しょうゆ 少々

・だし汁(雑魚)

作り方

①イタドリは皮をはぎ、サッと湯を通して一晩水にさらす。塩蔵の場合も一晩水につけて塩出ししておく。

②イタドリを3~4㎝くらいに切る。

③雑魚でだし汁をとる。

④だし汁を鍋に入れ、しょうゆですまし汁より少し濃いめに味付けをし、②を加えて少し煮含める。最近は油を少々おとして煮ることが多い。

(メモ:イタドリは「虎杖」と書く。なぜイタドリが虎の杖なのかはわからないですが、不思議な植物です。県外ではあまり食べられないようで

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