梼原町の神在居は、「万里の長城にも匹敵する」と司馬遼太郎も感嘆したほど、幾重にも重なる美しい棚田が自慢の集落です。山間部の暮らしを今に伝える風景として価値があることから、梼原町における文化的景観の重要構成要素になっています。地域のアイデンティティでもある棚田ですが、ところどころ石積みが崩れてしまっているところもあり、復旧が必要になっていました。しかし、地元で石積みを直す技術を持っている人も少なく、住民で直すのは難しい、一方でコンクリートで修繕するのは美しい景観にそぐわない、でも早く直して安全に耕作できるようにしたい。そんな悩みを解決する糸口となるよう開催されたのが、石積み学校です。

石積み学校は、一般社団法人石積み学校が主催しており、全国各地で開催されています。農地等の崩れた石積みを修繕しながら、参加者に石積みの技術や役割を伝えており、技術継承だけでなく景観保全にもつながっている素晴らしい取り組みです。ちなみに、先日四万十町で行った石積み甲子園も同団体が企画したものです。実は四万十川流域では今回の開催が初めて。これを機に、流域の石積み保全の取り組みが活発になればと思います。

今回は梼原町教育委員会の主催のもと、文化庁の補助金を活用して実施されました。今回のワークショップでは農地を支えていた石積みと、水路の石積みの2箇所を全部で4日間かけて積みなおします。わたしは2日間しか参加できませんでしたが、とても貴重な体験ができました。

農地の石積み修繕

11月3日の日曜日、神在居での第1回目の石積み学校が行われました。第1回目では、2日間かけて農地の石積みを修繕するということで、石積みの技術を学ぼうと町内外から約10名の参加者が集まり作業を行いました。なかには山口県からこのために来たという方も!遠路はるばるありがとうございます。
今回初めて石積みを体験する方もいたため、金子さんからまずは基本的な知識の説明がありました。石は奥に長く使うこと、尻下がりに置くこと、他の石に2点以上当たるように積んでいくこと、谷ができるように積んでいくこと、積んだらしっかりグリ石を詰めて噛ませること。意識しなければいけない点は多いですが、これらを丁寧に守ることで、何百年後も崩れない、丈夫な石積みを作ることができます。理屈がわかってもやるのは難しい、、ということで、早速修繕に取り掛かりました。

現場の石積みは、石がズレていたり落ちていたり、、雑草が生い茂り、原型がわからないほどボロボロになっていました。まずは石積みの下準備、土や石を崩して取り除いていきます。ここで思いもよらないハプニングが起こりました。崩していくと中から水が湧き出してきたんです。大きな石を除けるとたくさんのサワガニも。あっという間に足場はぐちゃぐちゃになり、このままでは作業ができないので、簡易的に水路を使って水が溜まらないようにしました。ボロボロになった石積みが地中の水を止めていたんですね。絶え間なく流れ出る水に、神在居の豊かさを感じました。

ある程度崩せたら、根石を置けるよう床掘りを作ります。泥水が溜まり、どれくらい掘れたかが確認しづらい状況でしたが、約20センチの深さになるよう掘っていきました。途中、地中にも大きな石が埋まっていてそれを掘り起こしながらの作業。神在居は大きい石がゴロゴロあるので、なかなか労力がかかります。水が湧き出してしょうがないところは、グリ石でならすなどして対応しながら根石を置いていきました。

根石が置けたらあとは積んでいきます。今回は4分勾配で積んでいくことになりました。地中に埋まっている動かせないほど大き石もいくつかあり、その石にうまく合うように積んでいきました。どう合わせるかが腕の見せ所。金子さんを筆頭に、どう置いたらいいかみんなで話し合いながら積んでいきました。参加者の皆さんも積極的に石を積んでいき、気づけば5段目、6段目まできていました。日も落ちてきたので、この日の作業はここで終了。積み出したらいつもあっという間に時間が過ぎてるんですよね、、、。水が湧き出すハプニングもありましたが、約6時間でほぼ形になるまで積むことができました。2日目の作業には参加できませんでしたが、無事修繕が完了し、見違えるほど立派な石積みが完成したようです。

水路の石積み修繕

第2回となる石積み学校が11月29日・30日に行われ、わたしたちは30日の作業に参加しました。第1回は農地の石積みでしたが、今回修繕するのは水路の石積みです。この水路は、大雨で石積みが崩壊し、所有者が土嚢で補修した場所だそうで、今回は崩れた石や土嚢袋を取り出しながら作業を進めていきました。地中には植物が根を張り巡らせており、土嚢袋の中にまでしっかり根っこが付いていました。植物の生命力を感じますね。また、今回も地中からたくさんのサワガニが出てきました。神在居は水が豊富なんだなとつくづく思い知らされます。

ある程度崩せたら石を積んでいきます。今回は水路の本線と、農地に作られている小さい水路を修繕していきました。本線の作業は前日の作業でほとんど終わっていたようで、この日は農地側の水路をメインに作業が進められました。石を積む人、石を運搬する人、グリ石を入れる人、石を仕分けしたり、道具を手渡す人など参加者全員でそれぞれ役割分担し、スムーズに作業を進めていきました。今回はスタッフ中平さんが大活躍!石積みのセンスを爆発させ、どんどん石を積んでいました。その実力は、金子さんも絶賛するほど。中平さんの頑張りもあり、予定より早く積み終えることができました。グリ石を敷き詰めた部分には土や枯草を敷いてカモフラージュ。水路の際にはもともと生えていたセキショウを植え直し、土壌の補強をはかりました。石積みだけだと少し殺風景ですが、その場にある素材を使って修景ができるのも面白いところですね。

第1回・第2回の開催を通して見違えるほどきれいになった神在居の石積み。やっぱり神在居には石積みが似合うなと改めて思いました。今回の修繕を地元の方も喜んでくれたら嬉しいです。この先、地元だけで石積みを維持していくのは厳しいところもあると思いますが、こういったワークショップを通して地域外から人が集まってもらいながら石積みを修繕していくことで、農村らしい風景を残せていけたらいいなと思います。