税所 伊織(さいしょ いおり)

税所 伊織さんの基本情報
・埼玉県出身
・昭和60年代生まれ
・四万十川川漁師(中央漁協所属)
税所さんってどんな人?
今回は、先月ご登場いただいた山崎さんの一番弟子になる税所さんを紹介していきます。税所さんは、底抜けに明るく、屈託のない笑顔で懐に飛び込んでくる親しみやすさが印象的ですが、川や魚に対する深い知識や情熱もまた伝わってくる方です。まずは気になる生い立ちを伺ってみました。
税所さんは、昭和63年生まれ、埼玉県幸手市のご出身です。「川の国埼玉」と呼ばれていますが、幸手市の東側は利根川から分岐した1級河川江戸川が流れていたり、同じく1級河川の中川が幸手市内を流れていたりします。
少年時代には、田んぼの用水路でフナ、コイ、ドジョウ、アユ、ウナギを釣ったり、タイヤを水路に沈めて、ナマズやウナギを獲って遊んだそうです。ですが、遊び場だった田んぼや用水路がどんどん住宅地や暗渠に取って代わる様を目の当たりにして、随分と悔しい思いをしたそうです。
そんな時に理科の先生から「さいたま緑のトラスト協会」に誘われ、そこで活動する中で、環境に対する意識が芽生えたそうです。高校も生物・環境系に進学し、釣り愛好会を立ち上げ、川に親しみながら知識を深めていきます。卒業後は環境系の専門学校に進み、そこには環境保護活動家として高名なC.W.ニコルさんや、当時「どうぶつ奇想天外」という番組で有名だった千石先生がいるような学校でしたが、魚に関しては「先生に教えられるレベル」だったそうで、少し物足りなく感じていたそうです。
就職先も環境コンサル会社に就職し、「水辺の国勢調査」など大きなプロジェクトに関わり、全国を駆け巡りながら、調査に明け暮れる日々を送ります。ここでちょっと面白い話。調査で捕った魚は、本当はリリースしなければいけないそうですが、そこは税所さん。ウナギやナマズやスッポンは土嚢袋に入れて、こっそり持ち帰り、ホテルの浴槽に水を貯め、飼っていたそうです。もちろんあとで食べるため。そんなある日、ホテルから持って帰るのを忘れてしまい、スッポンの忘れ物の電話がかかってきた事もあるそうで、お互い慌てざわついたであろう様子が目に浮かびます。
そんなユニークな日々を過ごしながら、疑問を感じる事もあったそうです。環境コンサル会社なので、公共事業などを行う際に、事前にどれくらい環境に影響を与えるか調査・予測(環境アセスメント)する仕事があり、それは事業にとって都合の良い調査結果が導き出される事もあったそうです。
仕事をする中でいろいろな出会いがあり、税所さんは2つの気づきを得る事になりました。
まず一つ目が、「川を生業にする人がいないと川はダメになる」ということ。税所さんは「都市河川は川として終わっている。」と言います。本来の川とは、四万十川のように川漁師がいたり、屋形船があったり、野菜を洗う人がいたり、暮らしと結びついていないといけないと。都会の河川はゴミ捨て場になっていたり、良くてバーベキューをするくらい。
もうひとつの気づきが、希少種だからだとか絶滅の危機にあるだとか訴えかけても一般の人には響かないということ。3大欲求のひとつ、食欲に訴えかけるのが一番。そこで、獲って食わす川漁師…。
そうした気づきを得て、「みんなに喜んでもらえる魚捕りがしたい!」と一念発起して、四万十の川漁師を志し、移住してきたのが23歳の時、14年前になるそうです。そして、リバマス山崎さんに弟子入りします。山崎さんも専業川漁師としてまだ安定する前にもかかわらず、しばらく居候させてもらったり、一緒に漁に出れば獲れた獲物は折半にしてもらったりと相当お世話になったそうで、税所さんは山崎さんの事を「そういう漢」なんだと強調します。
移住して3年目に起こった四万十川の変化
税所さんは「移住したとたんに四万十川が変わっていった。」と言います。3年目からは特に顕著で、エビもウナギもアオノリも激減し、品質も下がったと言います。原因として河床にある石と石の空間が砂で埋まり、エビやウナギの棲みかが奪われている事を指摘します。そうした「河床の目詰まり」により、もう一つ消えてしまったのが、瀬肩から浸透して瀬尻に出ていた伏流水だそうです。そうした状況に伴い、逆に「ガツンと増えた」のが、カマツカ、シマドジョウ、スゴモロコ、スッポンなどの砂地を好む魚類だそうです。

また税所さんは「川漁師は目的ではなく手段」だと言います。では目的はというと、やはり環境を良くすること。税所さんは、四万十市口鴨川で1日1組限定の隠れ宿「おりや」の主人をしながら、川で獲れたアユやウナギをお客さんに提供しています。その際、宿のお客さんに環境の話を良くするそうで、それがきっかけで、いろいろな場で話す機会も増えてきたそうです。そうやって、縁のある人に関心をもってもらいながら、環境をよくすることに繋げていきたいそうです。そして、ゆくゆくは、川だけでなく、山にも関わり、現在の針葉樹の森林を広葉樹に変えていき、川を良くして、全国の河川モデルにしたいそうです。何とも頼もしいですね。
今後とも是非よろしくお願いします!
