いつも清流通信をご愛読いただきありがとうございます。突然ですが、皆さんは廃油石鹸を使ったことはありますか?使い終わった食用油を排水として川に流すのではなく、石鹸に活用することで環境保全につなげようとするもので、市民でも参加しやすいエコな活動として注目を集めてきました。四万十川流域でも、廃油石鹸を作りながら、四万十川の清流を守ろうと活動している団体がいくつかありますか、なかでも四万十町商工会女性部大正支部では、30年以上にわたって廃油石鹸づくりに取り組んでおり、その活動が注目されています。今回は、四万十町商工会女性部大正支部支部長の伊勢脇さんと四万十町商工会大正支所の事務局壬生さんのお2人にお話を伺いました。


清流を子孫に残そう
四万十町商工会女性部大正支部で廃油石鹸づくりが始まったのは37年前のこと。きっかけは、滋賀県の琵琶湖で赤潮が発生し、水質改善に向けた廃油石鹸運動が話題になったことだったという。
「当時、琵琶湖で淡水赤潮が発生し、生活排水の流入が問題視され、合成洗剤を使わない石鹸運動が全国的に話題になったんです。また、平成の始め頃は、四万十川の清流保全に対する意識が高まった時期でもありました。そこで、『四万十川の清流を未来につなげたい』と、すでに廃油石鹸づくりに取り組んでいた農協女性部や高知市内の住民団体を視察し、ノウハウを学びながら、石鹸づくりをスタートさせました。廃油は大正地域の各家庭や居酒屋から使い終わったてんぷら油を提供してもらい、当時は1個100円で販売していました。購入してくださるのは地域の方が多いですが、なかには町外から定期的に買いに来てくださる方もいました。油汚れや皮脂汚れもよく落ちるので、『これじゃないとダメ』というリピーターの方も多いんですよ。」
1983年にNHK特集「土佐・四万十川 〜清流と魚と人と〜」が放送されたのをきっかけに一大ブームとなり、日本最後の清流として注目を集めるようになった四万十川。これをきっかけに、四万十川の清流を後世に残そうと、行政・住民で清流保全に向けた機運が一気に高まった。特に廃油石鹸づくりが始まった平成初期は、高知県に四万十川対策室ができるなど、行政・民間レベルで四万十川の保全の動きが活発化した時期。そんな機運も手伝ってか、各地で廃油石鹸をつくるグループができていたというが、今もなお活動が続いている団体は少ない。
「女性部の先輩たちは、『続けないと意味がない!』とよく仰っていました。そこには、四万十川の清流を子孫に残していきたい、という強い想いがあったからだと思います。この想いは、石鹸のパッケージにも記されているんですよ。始まった当初は40人ほどのメンバーがいて、年齢も若く体力もありましたが、今は高齢化もあり会員数も減ってきています。それでも、やれる範囲で細々と活動を続けてきました。はじめてからこんなに時間が経っているとは思いませんでしたが、先輩たちの言葉を胸に、できるだけこの活動を続けていきたいですし、住民の方に廃油石鹸を使い続けていただくことで、四万十川に目を向け、この清流を守り続けてほしいですね。」

反響のきっかけは新聞記事
高齢化等で廃油石鹸づくりをやめてしまったグループも多いなか、後世に清流四万十川を残していくために、今もなお地道に活動を続けている女性部の皆さん。そんな地域の方の想いに支えられて、四万十川が清流であり続けることができたのではないかと思う。さて、上記でお2人も語っていたように、細々と廃油石鹸づくりを続けてきた女性部。地元でもその活動を知っている人は決して多くはなかったが、あることがきっかけで県内外から注目されるようになったという。
「商工会では毎年6月10日の商工会の日にあわせて、交通安全のためのドライバーサービスを実施しているんですが、合併前の旧町村(窪川・大正・十和)で1年ごとに順繰りに行っているんです。十和地区が行った令和4年度、運転手の方に季節の花のポットと飲料水、そして廃油石鹸をお配りしたところ、その様子を取材してくださった高知新聞の記者の方が、廃油石鹸の取り組みに興味を持ってくれて。こんなに大事な活動をSDGsの文字がない時代から長く続けているのに、知らない人がいるのはもったいない!と、廃油石鹸を記事にしてくれることになったんです。できれば、石鹸を作っている様子を記事にしたいということだったので、日程を合わせて、地域の方にも手伝っていただき、廃油石鹸を作る様子を取材していただきました。この記事がきっかけで大きな反響を呼び、掲載されたその日から問い合わせの電話が鳴りっぱなしでそれはもうすごかったですね。それまでは年間220個ほどの売り上げだったのが、記事が掲載されて2日間で350個が完売、在庫がなくなってしまうほどでした。追加製造も追いつかないほど注文があり、『これはすごいことになった』とみんなで話したのを覚えています。なかには『50個送ってほしい』という問い合わせもあり、送料を負担してでも買ってくださる方もいらっしゃいました。新聞で紹介してもらえたことをきっかけに注目していただけるようになったので、記者の方には本当に感謝しかないですね。」





新聞記事による反響は、ただ商品が売れただけではない。活動を知った人たちから、「ぜひ廃油を使ってほしい」「石鹸づくりで使う牛乳パックを使ってほしい」と、材料を提供したいという問い合わせも相次いだという。一時は飲食店からも問い合わせがあったそうだが、住民の方が提供してくれる分だけで十分すぎる程集まるので、お断りしたこともあったとか。活動に賛同し、協力したいという声が多く届いたことは、長く活動を続けてきた女性部の皆さんにとって、自信にもつながったことだろう。
「昨年には、岡山県で開催された商工会女性部交流会の中四国大会で活動を発表させていただき、今年は全国商工会女性部連合会のまちづくり顕彰に高知県代表で応募することになるなど、活動を発信する機会をいただいています。大会に参加することで、他の地域の方との交流も生まれ、山口県の商工会から『レシピを教えてほしい』という問い合わせもありました。また、高知市内で開催される『帯屋町大おかみさん市』にも出店させていただいた他、活動に賛同してくださった高知市の春野商工会女性部のみなさんが、地域のイベントで私たちの廃油石鹸を販売してくださり、完売の報告をいただくなど、新聞がきっかけで、さまざまな交流・展開が生まれています。」
後世につなげるために
反響が反響を呼び、県外でも活動を発表するなど、その活動が広く知られるようになった女性部の廃油石鹸づくり。なかには、レシピを教えてほしいという声も少なからずあるそうだが、「作り方を知ってもらって、廃油石鹸を活用してくれる人が増えたら嬉しい」というメンバーの意向もあり、問い合わせがあればレシピを広めているという。さらに、一昨年からは地元の高校生にも廃油石鹸づくりを体験してもらう取り組みも始まっている。
「四万十高校の授業の一環で、自然環境コースの1年生に廃油石鹸づくりを体験してもらっています。まずは座学で作り方を説明し、玄関前のスペースで石鹸づくりを行います。地域の環境について学ぶコースの子どもたちなので、石鹸づくりを通して、四万十川の保全に興味を持ってもらえるといいですし、若い人に知識がつながっていくことは、私たちにとってもありがたいですし、やりがいを感じます。女性部は現在9名の会員がいますが、メインで活動しているのは5人程です。石鹸づくりもとても価値のあることなので、長く続けていきたいですが、女性部の後継者がなかなかいないのが課題ではありますね。ただ、石鹸づくりの際には商工会はもちろん、地域おこし協力隊や地域の方も協力してくださっていて、段取りも理解してくれているので、ノウハウは若い方にも引き継がれていると思います。関わってくれる方を増やしながら、知識の継承にも繋げていきたいです。」



廃油石鹸を作るのは乾燥に適した冬頃。前回作った際には700個程作ったとのことだが、男性陣の手助けも多く、ほとんどの方が経験済みで作業も手慣れていた他、事前の準備も行っていたため、スムーズに作ることができたとか。当初は昼過ぎまでかかると想定し、昼食のお弁当まで用意していたが、昼前には終わっていたそうで、「作る回数が増えたぶん、効率化されてきた」と笑いながら話してくれた。
大正支部女性部がなくなれば、この活動が終わってしまうかもしれない。そんな不安もあるが、今はできることをコツコツと続けていきたいと語っていた伊勢脇さん。四万十川の清流を守りたいという女性部の想いは、多くの賛同者を生み、協力してくれる人も大勢いる。形が変わっても、その想いが次の世代へと受け継がれ、四万十川の清流を守る活動がこれからも続いていく――。そんな明るい未来が待っていることを期待したい。
廃油石鹸は四万十町商工会大正支所の事務所の他、販売価格は違うが道の駅四万十大正でも購入することができる。商工会での販売価格は1個200円。大正を訪れた際は、ぜひお手に取ってみてほしい。
