これまでの清流通信でも、過疎高齢化が加速するなか、集落の機能を維持し地域を元気にしようと活動する団体をいくつか紹介してきたが、今回は中土佐町大野見の北地区で、ユニークな取り組みをしている団体があるということで、取材に行ってきた。今回お話を伺ったのは、大野見北地区振興会会長の下村具裕さんと集落支援員の岡村知世さん。下村さんは、大野見下ル川で下村農園を営みながら、イベント開催も企画している北地区のキーマンだ。

大野見北地区振興会会長の下村さん

▶大野見北地区

 四万十川の上流域に当たる中土佐町大野見のなかでも、源流側に近いのが大野見北地区である。北地区は、四万十川本流が流れる大股集落、寺野集落、神母野集落、そして支流萩中川が流れる萩中集落と、下ル川が流れる下ル川集落で構成される。人口275人(令和4年1月現在)、世帯数は約150世帯で、高齢化率は約61%と、典型的な高齢化地域だ。昔から農林業が主な産業であり、農業では米の生産が盛んで、わずかな土地を巧みに利用した水田が広がっている。きれいに積み上げられた石積みと水田が広がる美しい地域だ。また、山の地形を活用した広大な茶畑が見られるほか、大股集落には四万十川本流で最も上流に架かる高樋沈下橋がある。

▶大野見北地区振興会

 大野見北地区振興会は、平成18年に大野見村と中土佐町が合併したことをきっかけに、翌年の平成19年4月に立ち上がった。そこには合併後の地域への不安があったという。

「合併したことで、中心部から遠い大野見は行政サービスが低下してしまうのではないか、ならば自分たちでできることはやっていこう、地域を自分たちで守っていこう、という思いで始まりました。なので、住民同士が支えあい、助け合いながら、安心して暮らせる地域づくりを目標に活動しています。具体的な活動としては、廃校になった小学校を活用して運動会や北酒場、夕涼み会等のイベントを開催したり、草刈りボラインティア、モーニング喫茶、防犯パトロールを行っています。北酒場は住民が集まってワイワイ楽しくお酒を飲んで交流するイベントで、毎回多くの人で賑わいます。ここ数年はコロナで中止していましたが、今年はなんとかできないかということで、音楽イベントの要素も加える形で開催しました。以前のようにみんなでワイワイすることは叶いませんでしたが、静かに音楽を聴きながらお酒も楽しんでいただけたので、開催してよかったなと思います。」

▶集落活動センターおおのみきたが開所

 さらに、令和元年10月に北地区振興会が母体となり、集落活動センターおおのみきたを開所。「高齢者の年金プラス収入や後世に負担を残さないこと」を目指し、地域を元気にする取り組みをさらに加速させていった。開所に合わせて、精米機の設置やホールの改修、加工場の整備を行ったが、特に力を入れたのが、特産品の開発だ。注目したのは、イタドリ(イタドリとは高知県でよく食べられている山菜で、炒め物にして食べられることが多い。)とキクラゲの栽培。高齢者でも管理しやすく、初期投資がかからないことから栽培を始めた。現在イタドリは耕作放棄地等を活用して地区内の13人と1団体が栽培を行っているほか、キクラゲは4戸が栽培に取り組んでいる。特にキクラゲは町の給食で使われるほか、小売販売もされており、「こりこりして美味しい」と好評を得ているそうだ。道の駅なかとさ(中土佐町)やしまんとハマヤ(四万十町)等で販売されているのでぜひ手に取ってみてほしい。

▶ふるさとおもいびと「おおのみきた応援隊」

 開所2年目、新たな取り組みとして考えたのが、地域外から故郷の応援を募る「おおのみきた応援隊」だ。地域版のふるさと納税と言ったらイメージしやすいかもしれないが、寄付のお礼に特産品の詰め合わせを送っている。ただ、北地区の場合は単にお金だけではなく、情報や知恵、または労力を寄付することもできるユニークな内容になっているのだ。

「これまで、地域の中の人たちで何とか地域を守っていこうと取り組んできましたが、北地区を離れてしまった人たちにも、ちょっぴり地元を応援してほしいなと思ったんです。ふるさとで頑張ってくれてる人達がいるから、地域が維持できている。それをちょっとでいいから知ってほしいし、応援してほしい。そんな想いからこの活動を思いつきました。当初は北地区出身の方を対象にしていたのですが、それ以外の方からも申し込みがあり、初年度は72人、2年目には100人が応援隊になってくれました。お金だけでなく、新たな発想や外からの意見も必要だと感じますし、高齢化で草刈りなどの負担が大きく、労力も欲しいなと思っていましたので、応援する手段は寄付金での応援、情報・知恵での応援、環境美化活動の労力での応援の3つから選択できるようにしています。寄付金をいただいた方には、もらうだけでは忍びないので、年に1回「ふるさとにありがとう便」(返礼品)と、地域の情報発信としてお便りを年に3回お送りしています。返礼品は地域のものを14~15品目くらいお送りするので、地域にお金が落ちますし、特産品を知ってもらえる効果もありますね。なにより、地元の味や思い出、風を感じて懐かしく思ってもらえれば嬉しいです。」

 また、知恵と情報の寄付にも毎年数名の応募があるそうで、昨年はコロナで開催できなかったが、最初の年には15人に集まってもらい、地区の視察・意見交換会を実施。地区内の集落を巡ったあと、北地区で現在行われている取り組みを共有し、活性化策について意見を交換を行った。参加者の中からは「水田や茶畑の景色が美しい」「やはりお米が美味しいのが特徴なのでそれを活かせたらいいのでは」といった意見が出たほか、「地域のために力になりたい」という想いを強くした人もいたようだ。

「応援隊の世話人代表は会員の方になってもらっていますし、会員同士で輪を広げ会則まで作っていただきました。皆さん熱心に北地区のことを考えていただいて本当にありがたいです。」

今年度も引き続き応援隊を募集している。寄付金での応援(1口5000円から)、知恵・情報での応援、環境美化活動への応援から選べ、複数選択も可能だ。募集期間は9月1日~11月15日まで。気になった方やぜひ応援したい!という方は大野見北地区振興会までお問い合わせを!

▶地域で楽しく過ごせるように

 集落活動センターに県から補助金が出るのは3年目まで。その3年目を迎える今年は、また新しいことにも取り組んでみたいと下村さんは話す。

「大野見北地区には四万十源流の里という宿泊施設があるんですが、そこのゲートボール場でイベントができるよう、照明設備を整えました。僕は個人的に「のらしごと舎」というイベント企画などを行う団体を持っていて、3年前に源流の里で音楽イベントを開催しました。地域の人は地元のために頑張ってくれているのに、田舎には息抜きできるような娯楽がありません。なので、集落活動センターとしても、イベントを開催して地域の人に楽しんでもらえる場所を作れたらと思いますし、そんな「楽しみ」があることが振興会の活動を継続させていくことにつながると思っています。また、僕自身高知市から移住してきていて、子どももいるんですが、やっぱり子どもの数が少なくて一緒に遊べる子も少ないんですよね。地域の外からお客さんを呼び込み、大野見を知ってもらったり、好きになってもらうことで将来的に移住者が増え、子どもが増えることにつながったらいいなと思います。」

「イベントで大野見を盛り上げたい」と話す下村さん 
持ち前の人脈の広さを生かしてやりたいことがたくさんあるそうだ。

昭和30年代には1400人近くあった人口も今では275人に減少したが、自分たちでできることは自分たちでやっていくのだと、地域全体で試行錯誤しながら地域を盛り上げようとする姿勢は、かつて苦労して狭い土地を農地に開拓し、農業に勤しんできた先人たちと重なり、勤勉な大野見の人の精神が今も続いているのだと感じた。だからこそ、今でもきれいに手入れされた水田や茶畑が残り、美しい風景が保たれているのだと思う。財団としても北地区振興会の取り組みを今後も応援していきたいし、皆さんのなかでも振興会の活動に興味を持った方がいれば、ぜひ応援してほしい。

大野見北地区振興会

 

【住所】高岡郡中土佐町大野見寺野153
【TEL・FAX】0889-57-2999
【MAIL】onomi-kita@md.pikara.ne.jp
※事務所に人が常駐していないため、電話が取れないことがあります。

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