四万十リバーマスターの皆さんと一緒に川について学ぶ勉強会を行っています。それが「四万十川研究室」。今年のテーマは「川漁のルール」についてです。

そもそも川漁には規則があり、それによって資源管理が行われています。しかし、その規則は地域毎で違うなど複雑。そもそもの法律の建付けが難しくて混乱をきたすこともあります。川漁のルールがどうなっているのか、改めて正しく理解し、楽しく川と関わっていくための学びにしたいと企画しました。

今回の講師は高知県 水産振興部 漁業管理課 主幹の谷口正雄さんです。1時間程度の講義とそのあと質疑応答をしました。

講演「高知県の内水面漁業のルールについて」 高知県水産振興部 谷口正雄主幹より

今回お話いただいたのは、内水面漁業のルールの大枠です。正直、それをつかむだけでも一苦労でした!流域の皆さんは、これを守って川漁をしているのですが、完全に理解できている人は一握りなのかもしれません。

ブログでは概要だけご説明します。詳しくは、一番下の講演動画をご視聴ください。

内水面漁業に関する規制は主に3つあります。図のように①都道府県漁業調整規則を基に、②漁業権行使規則と③内水面漁場管理委員会指示が設定されています。この3つの規則の説明が主な講演内容でした。3つともに罰則があり拘束力の強い決まりになっていますが、行為ごとに対応する規則や機関が異なるため漁業者にとってわかりづらい状況なのです。困ったら漁協に相談する必要があります。

①都道府県漁業調整規則
各地域で操業実態や漁業調整の実態が異なることを踏まえ、各都道府県で水産資源の持続的な利用の確保や、水面の総合的な利用、漁業生産力の発展のために、各都道府県で定めることができるもの。

②漁業権行使規則(遊漁規則)
漁業権のうち第5種共同漁業権(内水面で行われる第1種共同漁業権を除く特定の魚種に対する漁業)では、漁協が遊漁規則を定め、遊漁を制限することができる。遊漁制限の規則が漁業権行使規則または遊漁規則とよばれる。

③内水面漁業管理委員会指示
内水面漁業管理委員会が水産動植物の繁殖保護や、漁業権等の行使の適正化、漁場の使用に関する紛争の防止または解決を図る等のために発出する指示。内容は、関係者に対し、水産動植物の採捕に関する制限または禁止、漁業者や漁具の数に関する制限、漁場の利用に関する制限など。

質疑応答・意見交換

質疑応答*要点のみ。詳しくは動画をご覧ください。

  • 定置網をしたらダメだとよく言われるが、そもそも定置網とは何か?
    →回答:高知県
    漁業調整規則第33条4号にあるように、定置網は張網に当ります。張網は袖網と袋網の両方を持つものだと整理しています。
  • 投げ網を投げた後に、その網の中で鮎を外していたらそれは定置網をしてるぞとよく言われる。網の中かつ水中で鮎を外すと違反になるのでしょうか?
    →回答:高知県
    袖網と袋網で別れている網ではないので、当該行為は張網にはあたらず、従って違反ではありません。
  • 火振り漁で網をあげるときに数回に分けてあげる場合、一回で全ての網をあげないと定置網になるのか?
    →回答:高知県
    漁業調整規則においてそれは定置網にあたらないため違反ではありません。しかし、漁連の規則ではどうなっているかわからないので確認が必要です。

*後日、四万十川漁業連合会に確認したところ、違反にはならないとのこと。この件に関して、詳しく聞くと、大正網を置いて鮎を追いこんで獲る方法は漁法として違反ではないが、追い込んだ後は網をあげて陸で鮎を外さなければ定置網となり違反となる。定置網とは、漁業者が漁業行為を行わずに敷設したままの状態のことをいう。例えば、大正網を張って、そのまま何もせずに鮎を待つことは違反になる。また、建網(火振り漁で使うもの)を使って行う漁業は許可を受けたものに限り、それ以外のものが行うと違反となる。

  • 投げ網がいつの間にか7月1日からになっていた。なぜですか?
    →回答:高知県
    県の漁業調整規則には記載がないためわかりません。四万十川漁連に確認してください。詳細は内容によって、高知県に聞くか漁連に聞くか異なります。
  • 資源管理の観点から。どの数値をみて資源管理を行っているのですか?
    →回答:高知県
    県の目安は持っていません。ただ、鮎種苗生産をしている内水面漁業センターが各調査を一緒に行い、相談しながら決めていると思います。
  • 鮎の遡上が少ないから、漁期を短くしようとすることはあるのか?放流量を増やせという指示があるのか?
    →回答:高知県
    県として基準は設けていません。漁協が採捕期間を短くするということは経験上ないです。落ち鮎漁に関しては区域や期間を短くしたり、落ち鮎漁を行わない漁協もあります。
  • 参加者が遊漁券を購入した状態で、しゃくり漁の体験会を有料で行うことは可能か?
    →回答:高知県
    可能です。全く問題ありません。
  • 漁業調整規則第34条に鮎採捕期間に上記以外の河川と記載されているが、漁協がない河川にも適用されるのか?委員会指示102号にあるように、鰻の採捕期間4月1日から9月末までは高知県下全域で漁業権あるなしに関わらず全部この期間なのか?
    →回答:高知県
    適用されます。漁業権のあるなしにかかわらず、県内の内水面であればすべて適用です。私有地以外の公共水面は全て共通。
  • 漁業権魚種のコイとテナガエビについて。物部川はコイが邪魔者になっていて鮎の敵になっている。コイが漁業権魚種の時代は終わっているのではないか?エビを獲る際に使う漁具がプラスチックゴミとして川に放置されている。採捕禁止ではなく漁業権魚種にしないのか?
    →回答:高知県
    コイについては他の漁協でも食害があるため漁業権対象種として必要かと言われています。10年ごとの更新のため、漁業権対象種としてコイを外すことを高知県から漁協に提案していますが、漁獲している人がいるため漁協からも申請が行われている状況です。テナガエビは、増殖義務を果たす放流が行えないため漁業権対象種としてのハードルは高いと思います。

意見交換

  • 津野町魚族保護会:四万十川の場合マス類は何がある?密放流されたマス類を採捕することは規制に関わってくるか?
    →回答:高知県
    マス類はアマゴ、イワナ、サツキマス(アマゴと同種)です。密放流だとしても放流されると天然との差がなくなってしまうため、規制の対象になります。
  •  津野町の源流域でもともといない密放流されたイワナがアマゴを捕食し被害を受けている。ニジマスを密放流した件もある。本来いなかった魚が対象魚種になっているのか。
    →回答:高知県
    そもそも密放流なのか、天然でいたのか正確なデータがありません。規則の解釈として、アマゴとイワナを対象にしています。ニジマスは検討したことがありませんが、おそらくマス類の規制に入ってくると思います。密放流だという確たる証拠がないので、区別できません。
  •  本来おるべきアマゴが駆逐されていることが調査で分かった。営林署や電力会社の管内でも県の規制が適用されるのか?
    →回答:高知県
    基本的にそれが河川であれば規制の対象になります。
  •  イワナは漁業権対象種だから密放流や外来種だとしても駆除できないということですが、どうやって駆除していけば良いのか。
    →回答:高知県
    漁業権対象種の採捕禁止期間以外で採捕することは可能です。
  • 遊漁規則、漁業行使規則について。遊漁規則では漁業権行使規則と大きく差を設け、遊漁を不当に制限することはできない。とあるが、漁業権者を優先することはできないのか。例えば、生業としている漁業権者はツガニを獲る際に5個では成り立たないので、10個にするとか。
    →回答:高知県
    今ここでは即答できません。高知県だけでなく水産庁に確認しなければいけません。
  • 遊漁・漁獲対象魚に含まれていない魚種を含めるにはどうすればいいのか。
    →回答:高知県
    第5種共同漁業権には増殖義務があり、漁協から増殖義務や漁場の計画を県に提出し申請します。管理ができると判断できれば免許し、委員会や県民に報告し広く告知します。ただ、増殖義務を果たすこと、採捕する活動がある魚種に対して免許しなければなりません。
  • 漁業権のない河川で遊漁料の徴収や権利を主張されたらどうすればいいのか。
    →回答:高知県
    第5種共同漁業権は漁協にのみ権利があります。したがって、公共水面や河川の区間を設定して徴収できるのは漁協のみです。場合によっては恐喝にあたるので、充分注意してほしいです。
  • 現在のシラスウナギの罪はどうなるのか。申告罪になるのか。
    →回答:高知県
    21㎝以下の鰻(シラスウナギ)は漁業権対象ではありません。シラスウナギは漁業権侵害になりませんが、調整規則違反となり、見つけたらその場で検挙できます。令和5年12月以降、知事許可漁業に変更された後は、無許可漁業、特定水産動植物に指定され罰金が3000万円以下のその場で検挙できる犯罪になります。
  • 漁師さんたちに聞きたい。現在、川で生計がたてられているのか?
    →回答:鮎市場 林さん(四万十リバーマスター)
    なかなかこれで生計を立てるのは難しいのではないかというのが本音です。鮎市場では申告に必要な数字はお渡ししています。
    →回答:下流漁協山崎組合長(四万十リバーマスター)
    シラスウナギはここ最近厳しい。アオノリは数年どころではなく厳しい。自分たちも厳しい状況。アオノリを獲っていた人は特に厳しい。
  • 今、川全体が非常に川の魚にとって悪くなっているように感じる。みんなで議論し、何をしたらいいかを考えていけばよくなっていくと思う。河床状況が悪くなっている。上流からの石が入っていない。河原が目詰まりを起こし、透水性がない、浄化機能もない。今年も鮎が大量に死んだ。鰻がとれなくなった。獲る人が考えて違反をしないようにきちっと守って、違反者を検挙する体制が大事。みんなで考えていきたい。川をきれいにすることについて、高知県の内部でまとまった体制で協力してほしい。少しずつ西部漁協でも動き始めている。
  • 増殖義務が漁協にあるということだったが。増殖義務とは放流だけではないのではないか。
    →回答:高知県
    増殖義務は法律で放流に限っているわけではありません。くみ上げ放流のケースもあります。種苗確保できる魚種については、何よりもわかりやすい目標になるので、県としては増殖目標を設定しています。ツガニの種苗生産がとまっていて放流ができていない、これについては魚道整備やくみ上げ放流をするなど、種苗生産の代替手段を一時的に認めています。放流以外にも増殖できるものはあると認識しているが、分かりやすい指標として設定しています。
  • 養殖魚は弱く、天然河川で生育したものを育てていくのが良いと言われているが、県でデータはあるか。
    →回答:高知県
    少なくとも放流鮎は河川の資源に寄与しているという体感ではないでしょうか?高知県内水面センターと内水面漁協と協議して、なじみやすいように県内の種苗を使って養殖鮎生産をしています。鰻は、最近天然河川だと放流が資源に寄与しないのではと言われています。放流方法を変えなければと考えているところです。加温せずに低温で小さいサイズの放流、天然になじみやすい鰻を生産しています。
  • 小学生中学生から。川に降りる道がおりやすくなると良いので、みんなで整備していくと良い。アメゴの簡易釣り場を整備したら遊びに行けるし、お客さんも来てくれるし、放流したらアメゴが増えるのではないか。おとり鮎を売っているところが江川崎にないので、みんなで友釣りをしやすいように整備してほしい。
  • 津野町魚族保護会では県との確執があって、長年徳島から鮎の放流種苗を買っていたが、今年から高知県産にするようにした。あまりにも病気で死ぬので、種苗生産について不満があった。最近、魚がおかしい、市場で受け取ってもらえないことがあった。姿が大変見すぼらしいものもいるときいた、下流の方はどうだった?
    →回答:永野さん(四万十リバーマスター)
    7月まではものすごい良い鮎だったが、8月の暑い日はエサが少なく、魚がたくさんいて、小さい鮎も多くて、ヒョロヒョロした鰯みたいな鮎が多かった。良くないなと思った。夏の暑いせいで鮎のエサがなかった。
    →回答:上流淡水
    鮎はローソク、太ったものがいる。河川環境の問題。山を大事にしないと良い鮎が育たない。種の問題ではないと思う。
  • 川の環境が悪くなってきているという問題がある。苔の状態、夏の高温。28度以上になると餌を食べないから鮎がやせる。ここ10~20年で川の環境が悪くなっている。30年ほど前は1000t獲れていて、全国一の鮎の獲れ高で、今は10分の1になっているだろう。増殖義務の放流のほかにやることがあるのではないか。良い時もあるし悪い時も多くある。放流が川の資源量を改善するかは疑問。むしろ天然鮎をいかに増やすかの方が非常に重要だと考えている。川の生物多様性、川虫やハヤ、アメゴなどの生態系のベース。赤鉄橋で大量発生した川虫の死骸で車がスリップするくらいのことが昔は度々あったと記憶するが、今はそんなことない。生態系のベースになる環境が鮎の苔の問題、河床の問題に現れていて、生態系が崩れているのではないか。天然物をいかに再生していくかが本当の増殖。単に放流で済ますのではなく、その視点が重要だ。赤鉄橋付近はいまどうか?
    →回答:下流漁協山崎組合長
    何年も前は川虫が多かったが今は減っているような気がする。
    →回答:西部漁協
    川虫の大量発生は度々西部でもあることだったが、今はわからない。四万十川本流の砂利が溜まっているところがあり、黒尊川との違いがある。バックホーで掘り返すことをしている。今あることで循環型の視点をもってみんなで考えていこう。

講演の内容

講演・質疑応答・意見交換の動画

川漁のルールのおはなし 118分

動画時間:118分

~47:30講演

47:30~1:07:00質疑応答

1:07:00~意見交換

講演で使用された資料

  • 講演で使用されたパワーポイント「高知県の内水面漁業のルールについて」
  • 高知県漁業調整規則
  • 高知県内水面漁場管理員会指示
  • 四万十川上流淡水漁業協同組合 行使規則

終わりに

内水面の規則は複雑ではあるが、それを難しいからと理解しないでいると恐ろしい。規則であるから、守らなければ罰則があり、強制力が強いのだ。しかし、そもそもこういった規則やルールは河川を楽しくみんなで利用するためのものであるべきだと思う。今回の議論に上がっていないが、地域ごとに「暗黙の了解」というルールもある。罰則はないが、そこで生活し川を楽しむには知っておかないといけないルールだ。どこにも記述がないので、このルールが一番厄介かもしれない。機会があれば、この暗黙の了解を共有する場もつくってみたい。

今回の学びの結びに伝えたいのは、こういった規則やルールを知り、理解し、うまく使って川をみんなで楽しみましょうということです。

追加資料

アンケートへの回答(高知県水産振興部漁業管理課)

追加資料

  • 四万十川漁業協同組合連合会 行使規則・遊漁規則