谷上 大輔(たにうえ だいすけ)

谷上 大輔さんの基本情報
・北海道札幌市出身
・昭和59年生まれ
・川漁師
・よりみち研究所 店主 マフィン、スコーン、カヌレ、コーヒーの店
ダイスケさんってどんな人?
先月は、「屋形船なっとく」の専務・あきさんをご紹介しましたが、今回はあきさんの川漁の相棒・谷上さんをご紹介します。

今ではすっかりダイスケさんの呼び名で親しまれている谷上さんが、北海道・札幌から四万十へ移住してきたのは、コロナ禍の5年前。数ある移住先の中から、なぜ四万十を選んだのでしょう。
ダイスケさんにとって、「川」といえば四万十川だったそうです。生まれ育った札幌には、あまり川遊びの文化がなく、テレビなどで目にする四万十川での川遊びに、いつしか憧れを抱くようになったそうです。
移住前の下見で初めて四万十を訪れた際には、その自然に圧倒されたと言います。北海道の自然も雄大ですが、四万十は自然がもっと近く感じられたといいます。

「想像以上で、比べ物にならなかった」
カヌーで川遊びを楽しみ、憧れだったアユを食べながら、空き家を探し回りました。家探しの条件は、ただひとつ。

「川にすぐアクセスできる家」
そしてついに見つけたのが、沈下橋がある高瀬地区の現在の住まいでした。ところが、そこで思わぬご縁が待っていました。なんと、その家の大家さんは「屋形船なっとく」の社長、岡村さんだったのです。現在、ご夫婦でコーヒーや焼き菓子を提供する「よりみち研究所」も「屋形船なっとく」のすぐ隣に店舗を貸してもらえることに。そして、必然的に川漁の世界にどっぷりと誘われ、なんと移住翌日には、火振り漁へ連れて行ってもらい、お手伝いをすることになるのでした。

「川での漁は新鮮で面白かった!」
最初の頃の役目は、網にかかったアユを外すこと。ところが、慣れない作業に手間取り、アユを手の中で温めてしまったことも。周りの漁師から笑いながら「サルの手にもならん手伝いやね」、そう言われたこともあったそうです。

それでも、漁が終わればアユを分けてもらえ、大好きなアユを思う存分食べられるのも、楽しみのひとつでした。その後も機会があるたびに漁を手伝い、少しずつ仕事を覚えていきます。やがて、網を川へ入れる作業や、川から網を引き上げる作業も任せてもらえるようになりました。

「今は食べるより、獲る方が面白い」
川遊びへの憧れから、カヌーまで購入したダイスケさん。でも、実際には川漁や川舟の面白さにすっかり夢中になり、今ではそちらの方が楽しいのだそうです。
漁の記憶①:午前3時起きで迎えた、落ち鮎の解禁日
四万十川の冬の風物詩、落ち鮎漁。解禁日には、午前3時起きで漁へ出かけました。まだ暗いうちから川へ集まる人々。解禁日ならではのにぎわいと、漁をする人たちの真剣な表情。そして、そんな時間を思い切り楽しんでいる姿に、ダイスケさんは感動したそうです。四万十川で暮らす人々と川とのつながり、人と人のつながり、そういったものをダイレクトに感じたのかもしれません。
漁の記憶②:投網の舟打ちで、まさかの落水!
あきさんと一緒に、投網の舟打ちもしているダイスケさん。これまでの漁で特に記憶に残っている出来事を聞くと、返ってきた答えは意外なものでした。

「舟から落ちたこと!」
投網の舟打ちをしていると、誰しも一度は通る道なのだそうです。落水したことさえ楽しそうに語るダイスケさん。アイコンにも使わせてもらっているその時の写真がこちら。

漁の記憶③:真っ暗な川で聞こえた「ジャブジャブ」
日も暮れ、辺りが真っ暗になった川で投げ網をしていたときのこと。投げた網を回収しようとしていると、川の真ん中から、
ジャブジャブ、ジャブジャブ……
と、人がこちらへ近づいてくるような音が聞こえてきました。

「網があるので、気を付けてくださいね!」
そう声をかけ、ライトを付けると、誰もいない。辺りを見回しても、人の姿はもちろん、獣の姿すらありません。怖くなったダイスケさんは、その日は漁を切り上げて帰りました。
その話を年配の方にすると、「何百人も死んでるから、どこに出てもおかしくない」と言われたそうです。それ以来、その場所へ行かなかったダイスケさん。ところが、その記憶も少しずつ薄れかけていた今年。なんと、同じ場所で、同じ経験をしたのです。再び、真っ暗な川の中から聞こえてきた「ジャブジャブ」という音。
ただ違いは、アユがたくさん獲れていたこと。怖さよりも、漁の面白さが勝ったのか、今回は逃げなかったそうです(笑)。
北海道から四万十へ。
「川遊びをしてみたい」という憧れから始まった四万十での暮らしは、いつしか川で魚を獲り、舟を操り、地域の人たちと一緒に漁を楽しむ暮らしへと変わっていました。食べるために始めたのか、遊ぶために始めたのか。今となっては、その境目もよく分からないのかもしれません。ただひとつ確かなのは、「今は食べるより、獲る方が面白い」ということ。
四万十川に憧れてやって来たダイスケさんは、今日も川へ向かいます。
