中土佐町大野見で、テナガエビの養殖をしている!?四万十川で流れた驚きのニュースがあったのを覚えているだろうか。その正体を確かめるべく、今年1月に清流通信で取材を行った。(その記事はこちら「清流通信291章~四万十川流域でテナガエビ養殖に挑む。松下商店」)代表の松下さんは、その時に「今年4月以降に販売を目指す」と話していた。

8月のある日、松下さんから連絡が来た。テナガエビの販売を開始したので試食してほしいという、試食ご招待の電話だった。事業企画が新型コロナウイルスの影響で次々と延期、中止の中、久しぶりのいいニュースに心躍った。

9月9日、松下商店を再び訪れた。

テナガエビを販売するために、新たに魚介類販売許可を得た施設を構え、そこでテナガエビの出荷を行っている。テナガエビを洗い、冷凍し、真空パックにして販売を行っている。真空パックへの詰め方も試行錯誤中で、きれいに横一線に並べ、手が折れないようにシートを同封している。

約10尾500円の商品だ。小売販売で、一般消費者や飲食店向けに販売している。県外への販売もあるようだ。地域によって求められる大きさが異なり、反応がまちまち、味は天然物と遜色なく美味しいと好評だった。

商品の真空パックされたテナガエビ

案内されたのは、久万秋沈下橋を超えた先にある南部邸であった。大野見の偉人である南部甕男(なんぶみかお)が幼少期に暮らした家だそうだ。以前まで、民泊用にと台所やトイレが整備されていた。雰囲気のいい、土間の台所で、テナガエビの試食がスタート!

南部甕男邸宅

テナガエビは、5gほどで10㎝もないくらいの小ぶりなサイズ。素揚げにして岩塩でいただいた。うまい!癖がなく食べやすい。しかし、しっかりとエビの旨味が出ている。殻が固くないので、口当たりもよかった。テナガエビ特有の長い手もポリポリと、プリッツを食べている感覚。飲食店などでは扱いやすいサイズ感なのではないだろうか。

とても貴重なテナガエビ、ごちそうさまでした!

解凍したテナガエビ
揚げたてのテナガエビ

このテナガエビの販売は、どうにか今年中に販売までこぎつけたいという強い想いから成功した。好評を得たものの、逆に生産が追いつかない状況で、以前から連絡をもらっていた人に買ってもらうことはできたが、次の出荷ができない状態が続いている。そこをクリアーして、広く多くのの人に食べてもらいたい。

テナガエビのおかげで「松下商店」の名前が拡がった。様々なメディアにも取り上げてもらった。それを活かしたいと思う。どうしても販売価格が高いため、付加価値をつけたストーリーを一緒に売る必要もある。四万十川の観光資源の一つとして、研究をすすめられないだろうか。様々な方向性を思案しながら、今現在事業の方向性を再検討中だ。

今後、販売量を増やすための研究が必要な段階に入った。販売先は何とか探せそうだが、商品がないことには売り上げが立たない。生産量を上げる研究費を捻出のため、新たな財源確保の道も模索中だ。

「テナガエビの事業はまだまだ危ういところもあり怖い」と、松下さんはいう。「でも、そこが面白く、やりがいがあります。今回のテナガエビの報道が、大野見の名前を広めるのに少しでも貢献出来たら嬉しいし、松下商店として大野見の産業を盛り上げていきたいと思っています。」

松下商店には、7月から新たなメンバーが加わった。坂本創一さん、25歳。東京でサラリーマンをやっていたが、東京で働くことに違和感を感じていた。東京のような都会が日本を作っているのではなく、伝統や文化、自然、地域というつながりのある地方に価値があると考え、地方で働きたいと思った。その中で、遊びに行った時の高知に面白さを感じ、移住イベントに参加し、松下さんと出会ったのだった。今は、地域おこし協力隊として松下商店に勤務しているが、今後も松下商店で頑張りたいと意気込みは十分だ。

今のままだと大野見には人がいなくなる。松下商店としては、若い人を雇い、大野見に若い人をもっと増やしていきたいと考えている。大野見から出ていった若い人たちの中には、本当は帰ってきたいという人も多いという。それだけ魅力ある地域なのだ。

テナガエビの販売という目標を達成し、まだまだ課題も多いというが、若い戦力も入り、前を向き進み続ける松下商店!これからの動きに注目していきたい。

美味しいテナガエビごちそうさまでした!

松下昇平さん(左)、坂本創一さん(右)
取材中の財団スタッフ丸石