前回の321章に続いて322章では四万十川天然鮎をより多くの人に知ってもらうためのプロジェクトについてご紹介します。引き続き林大介さんへのインタビューをご紹介します。

鮎もワインも「世界のローカル」

 2017年夏、四万十川に天然鮎×コンフィという新たな料理が登場した。コンフィはフランス料理の一種で、食材を低温のオリーブオイルでじっくりと煮た料理のことだ。道の駅のデザインを手がけるサコダデザインのつながりで様々な分野の専門家たちが一堂に会し、道の駅よって西土佐が主体となってプロジェクトが始まった。よって西土佐のHPには「日本の、高知の田舎ではございますが、私たちの鮎も世界のワインも、同じ「世界のローカル」の魅力であり味わい。自然とそこに住まう人の協働の産物が世界の色々なところでまた重なり、進化をしていければと考えております。」とある。東京のレストランと鮎のコンフィのメニュー開発を行い、コンフィはワインで楽しむものなのでソムリエやワイン商社と一緒にマリアージュを考案した。これがきっかけで現在は、西土佐の食材を様々なワインと楽しむ提案も行っている。林さんに当時の想いを聞いた。

2019年6月19日 よって西土佐道の駅(日本の田舎)とイタリアのワイナリー(世界の田舎)とのフレンドシップ協定
道の駅の一角にはワインがズラリ!

「鮎を知ってもらう。目線を変える。今までのような乾燥鮎を甘露煮に使うとか日本風な味付けに使うと思われていたけど、ちょっと目線を変えてみようよ、という発想。最初は、コンフィってなに?っていう聞いたこともないような料理を提案されて、鮎の味が飛んでたら、やめろうとおもっちょったがよ。食べてみたら、鮎の香りは天然の香りが残った状態で完成されていた。その時、これをやっていこうという気持ちになった。目線を変えると言っても、鮎の味を無くしてまで広めろうとはおもわなんだ。あくまでも天然鮎の香りや味わいが残る商品で、日本料理以外のもの。味がつぶされない状態で出来上がったから素晴らしいと思った。味を守ったうえで新しいものを作るということ。」

鮎のコンフィ ©sakoda design.inc
2018年3月東京赤坂の「crosstokyo」にて鮎コンフィをお披露目

開発プロジェクトではクラウドファンディングにも挑戦し、メディアにも取り上げられた。四万十市のふるさと納税返礼品にも登録されている。

新しい発想は周りにどう受け入れてもらうかが課題になる。鮎のコンフィは美味しいし、ワインとの相性も最高だ。ただ、高価格なこと、日常的に食べられないことが課題にあり、新たな商品展開で缶詰が生まれてきた。今後、コンフィを広め、コンフィの販売と商品開発を継続していくことが肝心だと林さんはいう。

「広げるのは難しいよね。どこのフランス料理店のシェフも、すでに鮎を使ったコンフィにチャレンジしている。コンフィは時間がかかる料理で簡単にできるもんではない。でも、缶詰にしたら常温で日持ちもする、キャンプとかでオイルを使ってパスタやアレンジを作ることができる。そこで、小さい缶詰のコンフィを作った。鮎と言う目線を拡げたい。コンフィづくりは失敗ではないと思っている。」

鮎のコンフィ缶詰

リバーベキュー 四万十川をBBQの聖地に

2020年、次に動き出したのは「しまんとリバーべキュープロジェクト」。バーベキューというコミュニケーション文化を通して、四万十川流域の農林漁業のワクワクする未来を描くために、四万十市西土佐で道の駅よって西土佐を中心に地域と行政が協力し構成された団体が「しまんとリバーベキュープロジェクト」。

しまんとリバーベキューのパンフレット

道の駅の反対側にもともとあったスペースを「RIVER SIDE BBQ」と名付け、本格的なバーベキューを楽しめるスペースとコースを考案にした。ホテル星羅四万十では、2Fテラスを改修し、新しい空間「ルーフトップBBQ」が生まれた。

道の駅の向かいにある「RIVER SIDE BBQ」
道の駅の向かいにある「RIVER SIDE BBQ」

日本BBQ協会ともタッグを組んでいる。毎年アメリカ・テキサスで世界大会も開催されていて、コンテストで勝ち進むと日本代表選手として世界大会への参加権が手に入る。そのコンテストが西土佐で開催され、他会場にはないアユの塩焼きコンテストも行われた。BBQのプロ達が鮎の塩焼きを焼き、姿、味などを審査する。このコンテストは好評で、他の会場でもやりたいと声があがるようにもなった。

 このプロジェクトリーダーも林さんだ。

「バーベキューは焼肉と違う。焼くことがおもてなし。焼いてフレンチと同じようにキレイに調理したものを並べてみんなでワイワイと食べる。そういう楽しみ方もあるのじゃないか。4年目に入って、ルーフトップで星空を見ながらバーベキューしようということ、道の駅の前にリバーサイドという展望デッキもできた。ゆっくり時間をかける楽しみ方を拡げていきたい。これからは、しっかりと収益を目指すものにしたい。あとはどれくらいできるかだけど、そう簡単にはいかない。積み重ねです。知ってもらうことが大事です。いけんものを切っていくのではなく、どうしたらいいか模索していく。みんなができる範囲でやっていけば良い。漁師は漁師、売る人は売る人。アユを知ってもらいたいという気持ちでやっていきたい。目標は、バーベキューをするなら四万十に行こうよ、といってもらえるバーベキューの聖地のようになっていきたい。」

 本格的なBBQは、美味しさとゆったりとした時間を大事にする。焼いてただ食べるだけでなく、食材の旨味を最大限引き出す工夫を凝らす。西土佐の食材の美味しさ堪能し、四万十川を楽しんでもらう最高のおもてなしになるに違いない。ただ、流域の人々には馴染みがないので、楽しみ方を伝え拡げていくこと、西土佐でBBQのイメージを定着させていくことが課題になっている。このプロジェクトは農水省の期限付き補助事業を利用したが、補助の終わった今年からが勝負だと林さんは意気込む。

10年後の四万十川と鮎

取材当日の四万十川 増水で濁っている

林さんをリーダーとして展開する様々なプロジェクトをお伝えしてきた。活鮎、コンフィ、BBQと新しい挑戦を続けるが、これからはどう進んでいくのだろうか。

「今やっていることを続けることが一番大切なことだなと思う。やめてしまうとそこで終わりやけん。活魚を送ることにしても、鮎のコンフィにしても。鮎を新しい境地にもっていった。コンフィを活かしたメニューの試作も始めている。続けていくだけで、衰退してもしょうがないから、続けていく以上は広めていけるように、慌てずに一つ一つの積み重ねで続けていきたい。バーベキューとコンフィは今から広げていける要素はあると思っている。」

 四万十川の天然鮎を知ってほしいという想いから、様々な挑戦をしてきた林さんだが、押し寄せる高齢化の波で、鮎を獲ることができる人、食べる人も減ってきている。これからの課題・目標も含め、四万十川の将来をどう考えるか聞いてみた。

「10年後は75歳。鮎を獲るもんが育ってない。火振りもだんだん衰退してなくなってくる。でも、若い子たちが鮎に興味がないわけじゃない。友釣りをしている遊漁者も若いし、友釣りをしたい子もいっぱいおる。鮎を獲る人が今以上に増えることはなくても、ある程度の人数は確保できるけん、とる状況は残っていくかなと思う。でも、伝統の漁として火振りがなくなるのは寂しい。楽しい火振りって言うのも今後の課題じゃないか?とらされる漁か、とる漁か、楽しむ漁か。どうやったら楽しい漁になるかな。みんなができる漁ではないから、そこに壁があるのではと心配。次に渡せる仕組みづくりが大切。若い子がやりたいと言ってきたら、いらなくなった人が(権利を)譲渡するとか、繋ぐことを組合が考えないと。急がないと10年後は火振りが全部なくなっていく。」

道の駅職員の若手ホープ川井集平さんは30代。鮎漁が趣味だ。この時期になると、道の駅から川をのぞき、鮎が跳ねた場所、跳ね方をチェックしておく。仕事が終わってから網を投げるのだ。はじめたきっかけは飲みの席。鮎を獲る家ではなかった川井さんと飲み仲間の一人が、せっかく四万十川が目の前にあるから鮎を獲ろうや!となり、その場にいたもう一人のお父さんを網投げの師匠にして教えてもらった。1年目は全く獲れず仕事も忙しかったけど、2年目から余裕もできて獲れるようになった。今年は既に多くの鮎を出荷している。

西土佐には、川井さんのように網投げや友釣りなどに精を出す若者がちらほらといる。林さんが言うように、若者と既存の仕組みや先輩漁師たちとを上手く繋げば、10年後の四万十川は悪くはない。

網投げをする川井さん この日は大漁!

 最後に林さんが大切にしていること、多くの人に伝えたいことをきいた。

「鮎の認知度が大切。鮎っていうものは姿、顔も美しいけれど、食べても美味しいっていう魚であると、10年後と言わず鮎の認知を高めていくしかない。鮎が減ったけん川が汚れているとなぞられるように、鮎は川を印象される魚だから、大切にしないといけない。川の環境を考えて、「守らんといけんから魚をとるな」という変な方向に行くのはやめてほしい。鮎は川がきれいだから食べても美味しい魚である。古来の鮎漁、鮎を食す捉え方を日本人として忘れず今後につなげていってほしい。」

 四万十川の名前だけで鮎が売れる時代は終わった。林さんが率先するプロジェクトの数々は、現代の人々に、四万十川の鮎が美味しいことを知ってもらう努力である。こんなに美味しい鮎がいる四万十川ってすごいだろと胸を張って伝え続けている。四万十川になくてはならない林さんだが、その林さんはしきりに「続けていくこと」を課題に挙げた。今一番の課題は、その鮎を伝える人が減っていることだ。林さんは、これからも多くの人に鮎や四万十川を伝えていくだろう。筆者自身、四万十川の仕事をする一人として、ここまで作り上げてくれた林さんの想いをひき繋いで活動をしていきたいと、心から思う。

イベントで鮎を焼く林さん

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