319章で四万十川のアオサ不漁を取り上げたが、四万十川の河口で何が起きているのだろうか。今回は、その後の動きと不漁の原因を探っていきたい。

*取材内容をしっかり伝えるため、長文の記事になっています。ご了承ください。

*アオサ、ヒトエグサなど呼称が様々ですが、本記事では「アオサ」で統一します。

*人工種苗生産の方法はこちらで紹介しています。→https://www.shimanto.or.jp/?p=398128

2023年3月のアオサ養殖漁場の様子
目次

1アオサがとれない原因を探る

不漁の原因と課題について、以下の4者の見解を伺った。

(1) 四万十川下流漁業協同組合(以下 下流漁協 ):アオサ養殖を行う組合員が所属する漁協。独自にアオサの人工種苗センターを運営し、組合員に種苗を販売している。

(2) 土佐清水漁業指導所(以下 指導所 ):土佐清水市、四万十市、幡多郡のうち三原村及び黒潮町の2市1町1村で水産業普及改良事業の推進及び水産業振興の総合的な指導を行っている。令和4年4月から人工種苗生産に関わる。

(3) 高知大学 平岡雅規教授:高知大学で海藻を専門とした研究を行い、四万十川ではスジアオノリの調査を長年続けている。スジアオノリとアオサの陸上養殖に成功。

(4)高知大学 大野正夫名誉教授:四万十川の現在のアオサ養殖の方法を確立し、2001年まで40年近く四万十川のアオサ調査を行ってきた。

アオサ収穫量(t)

(1)四万十川下流漁協のはなし

沖辰巳組合長、濵口貞雄副組合長、宮崎啓介河川環境部長の3名から話を伺うことができた。

Q 2年連続の不漁で大きな打撃を受けていることと思いますが、今年の種苗生産や組合員の様子はいかがでしょうか?

種苗生産の現状はなんともいえない。指導所の指導を受け、春に四万十川以外の黒潮町蛎瀬川、土佐清水市浦尻川、宿毛市福良川の3か所からも母藻を採取したが、お盆の時点で四万十川の板の母藻はほぼ消滅。他の河川のものは順調だが、水が合うかが心配。今年はこの種で養殖を続けるしかない。今は指導所の人が一緒にサポートしてくれている。

普段アオサ養殖を行う組合員は26軒だが、今年に関しては11軒。右岸側が9軒中3軒に減り、養殖面積は24000㎡から2400㎡に10分の1へ縮小、左岸は17軒中8軒に減り、面積は80000㎡から10000㎡に8分の1へ縮小した。面積を縮小したが、種の状態によっては全部使わないかもしれない。

養殖を休む組合員は、先が見通せない現状を鑑み状況を見守って年金や農業で何とかつないでいる。今年も養殖を試みる組合員は年金をもらっていない若い人が多く、今まで培った養殖技術を活かしたいと続けるようだが、現在は、アルバイトや親の年金をやりくりして、最低限の生活をしている。 国や県の補助制度も探したが内水面を対象としたものはほとんどなく、組合は組合員の拠出金で運営しているので、今年も収量0になったら組合が存続できるか分からない。組合員が転職や出稼ぎで離れてしまうと・・・大変な時代に入ってきた。

アオサの天ぷらが名物だった地元の飲食店も大きな打撃になっている。楽しみにしている観光客も多いのでがっかりされるという。アオサを使った商品からは「四万十川産」の表記が消え、代わりに「高知県産」と表記されている。一番の取引相手だった会社の商品からも四万十川の名前が消えてしまった。

Q不安な状況が続いていますが、対策について教えていただけますか?

現在、副組合長をリーダーに、産官民学が連携した復興プロジェクトを立ち上げようとしている。目標は、アオサがかつてのように豊富に取れるようになること。原因を明らかにし、適切な対策を考えなければいけない。四万十市からは、既存の協議会に新しい部会をつくる提案をもらっていて、我々としてもスピード感をもって設立総会の準備を進めている。大きな課題は資金面。今はウェブサイトとSNSの立ち上げ、クラウドファンディングなどの準備も進めている。産業振興関係の補助制度も探している。組合員の生活が懸かっているので、問題解決に全力を尽くしたい。

組合員の理解を得るための広報誌(「四万十川下流通信アカメ」年に2回発行。)も企画している。全組合員に配布し、詳細は総会で説明していく予定だ。

Q不漁の原因は何だとお考えですか?

原因は自然の要素もあるだろうし、種付けにも問題があったかもしれない。原因の究明が必要だ。以前(3年以上前)の情報によれば、栄養不足が原因とされていたが、アオサはそれなりに収穫できていたので、因果関係はわからない。大学の先生や関係者、県や国とも協力して情報を共有したい。

種苗生産の工程管理は非常に重要だと考えている。昔は経験的な方法で管理されていたが、より詳細な管理をしていかないといけない。腐葉土を撒いてユンボで川底をかいて整地したら、アオサが栄養分を吸収して太るかもしれない。いろんなことをやって、意見を出し合わないと。とにかく、原因を突き止めたいと考えている。

下流漁協組合長 沖辰巳さん
種苗センター

(2)高知県 土佐清水漁業指導所のはなし

石川徹所長、淵隼斗技師からお話を伺うことができた。

Q令和4年4月から下流漁協の皆さんと一緒に人工採苗に関わっているということですが、どのような指導をされているのでしょうか?

採苗のやり方を見せてもらったところ、接合子の大きさを経験に頼って確認していたので、目盛が表示される接眼マイクロメーターを導入し、時期ごとに接合子の大きさを測定するようにしてもらった。

現在は、先行研究と比較して成長状況を調査している。また、接合子を培養する条件(照度、水温、塩分)も併せて把握している。種苗センターでは、複数の水槽で培養を行っており、各水槽の培養条件は設置場所や時期によって複雑に変化する。これらの情報を記録し、分析することで、接合子の生育に適した培養方法の改善に繋げていけると考えている。ただし、まだ2年目なので明確なことは言えない。

Q約2年間人工採苗に関わってこられたと思いますが、人工採苗の難しさや課題、現状を教えてください。

接合子の中に葡萄のような顆粒が見えてきたら、遊走子ができていることを示す目安となる。しかし、同じ接合子板内でも全く成熟していない個体もいれば、早めに遊走子を出してしまう個体もある。そのタイミングをできるだけ合わせるために、接合子を事前に暗室に入れ(催熟)、その後に強い光に当てる(遊走子放出の促進)処理を行う。それでも個体差があり、遊走子を放出させるタイミングを計るのは難しい。

人工採苗の勘所は、遊走子の確実な放出と、必要量が網に確実に着生することだ。これらを確認するために、試験用のロープ片を顕微鏡で観察している。去年は、接合子をつくるタイミングの4月下旬から見ていたが、特に問題なく遊走子は放出できていた。養殖網の枚数も予定通り準備できた。半分の枚数をつけた段階で、接合子板の枚数や遊走子の出方にも余裕がある状態だったことから、人工採苗中の問題はなかったと考えている。遊走子が網についたことや芽生えも確認している。

Q今回のアオサ不作について原因は何だと思いますか?

自生する天然ものも減っている。養殖網に着いたものが伸びないに限った話ではない。

令和4年12月ごろの網地を見たら、短い芽生えのような藻体は生えているがそこから生長しないようにみえたので、遊走子は網についていると思う。1月までは順調と聞いていたが、そこから生長しなくなった。

・雑藻や濁りが原因とは考えられませんか?

今年の漁場を観察して感じたことは雑藻と浮泥の付着が多いということ。

原因となる藻類はシオミドロであり、漁業者の方も網を棒でたたくなどして除去を試みているが、効果は薄いようだ。アオサ養殖では網を干出させることでほかの雑藻類の生長を抑えるが、シオミドロは切れた藻体が網に絡まって着いてしまうことから対処が難しい。

また、浮泥の影響もあると考えている。一昨年から、当所では黒潮町からの依頼を受けて、蛎瀬川でアオサとスジアオノリの生育試験を行ったが、いずれも生長が停滞した。文献には、幼葉体時に0.1㎜以上の厚さの物質が付着すると成長阻害するとある。蛎瀬川でも、泥のある場所は伸びず、泥が少ない本流に近い方のアオサはより伸びた。

・栄養塩に問題はありませんか?

四万十川についての文献によると、栄養の主たる供給源は森林からだと言われている。次に農業、人の栄養負荷。一番大きい供給源の森林はそれほど変わっていない。測定時の条件で栄養塩の数値は大きく変わるから、比較が難しく傾向をとりにくい。

・高水温の問題はありませんか?

水温が原因であれば、一般的な意見として、水温の高い地域の沖縄や鹿児島の種をもらうこと、高水温に遺伝的に強いもの掛け合わせ種苗をつくることが対策の一つとして考えられる。ただし、遺伝的攪乱などが生じる可能性もあるため、慎重な検討が必要と思われる。

濁りにしろ、水温にしろ、競合生物にしろ、負の要因は複数考えられ、これらが、相まって今の減少に繋がっている可能性が考えられる。

Qこれまで、アオサ養殖について調査研究はされてきたのでしょうか?

県では、直近20年程度で見れば、海での大型の褐藻に関する藻場造成や、緑藻を用いた環境浄化を中心に調査研究を行ってきた。

 当所では、ヒトエグサの養殖に関して種付けにおける従来の人工採苗マニュアルの見直し・改編など技術面の改善に取り組んできており、今後も続けていきたい。

(3)高知大学教授 平岡雅規さん

海藻の研究者である高知大学の平岡雅規教授にお話を伺った。

Q今回のアオサ不作の原因は何だと思いますか?

人の問題が一番大きいと思う。春から秋の半年は人が管理する期間。川に出してからも、それぞれが杭をうち、網の高さを調整している。網張るタイミング、種付けと芽生えを見て、いつどんな温度の時が良いのか、研究しないといけない。どんな手順でどんなふうにやっているかという記録を残しておけば、失敗しても次の年の改善に役立つ。今はそういった記録をとっていないようなので、何が問題かがわからない。

確実に言えるのは、遊走子が一番大事だということ。これが大量に出て、網に付かないといけない。条件が揃えば遊走子は出てくるが、一斉に出てきてくれない。その調整のために、暗室に入れてから明るくすることで遊走子を一斉に放出させたいところだが、それまでにも成熟した遊走子嚢から遊走子は自然と放出される。成熟度合の異なる遊走子嚢をしっかり観察して、なるべく一斉に放出できるタイミングを見つけなければならないが、それには現場に張り付いて見続けることが必要で、それに加えて経験がないと難しい。これまでの担当の人と話し合いながら工夫すべきだ。

Q年々収穫量が減っていたのは環境要因もあるかと思いますが、いかがでしょうか?

天然のスジアオノリは温暖化のせいでダメになっている。アオノリだけでなく、高知県全体の海藻類が減っている。昔は10年くらいの周期変動があると言われていたが、今の水温は上がりっぱなしで下がる兆候がない。アオサの場合、川との関係があって、川の水が冷たくても海水が温かいと影響が大きい。ただ、アオサは天然養殖なので、工夫次第でとれるかもしれない。水温のせいだとしたら、時期をずらして張りこめばいい。

雑藻や泥の付着による生長阻害や濁りで光合成がおちるなど、水温だけが原因とも限らず、原因の特定は難しい。

アオサには塩分が必要なので、冬場に予定外の大出水で長い間淡水化するとよくない。特に葉の生長には塩分が重要。外洋に面した海で育つ藻体は、汽水域で育つ藻体よりも胞子が出て葉が短くなるのと、食圧が高いのもあって、伸長しにくい。

栄養塩は色に関係する。窒素とリンは必要量を越えると葉の色を濃くする。川には基本的に十分な栄養塩があるので、栄養塩を多く流しても藻体が伸長するわけではない。今回は、栄養塩が足りないことが原因だとは思えない。

芽生えがあるけどそこから生えないのか、最初から芽生えがなかったのか。3月ごろに現場を見た感想は、少し芽生えているが、それは天然で発生したものが養殖網についたのだろうと感じた。環境変動が主な原因だとしたら、2000年代から水温が急激に変わっているので、そのあたりから変化が現れているはず。岩についているものが伸びないのは、濁りや塩分の関係があるのかもしれない。

Qアオサの陸上養殖の開発をされているということですが、どういった技術なのでしょうか?

国立研究開発法人科学技術振興機構のOPERAプログラム(大学で研究した技術を企業に渡して、社会で使ってもらおうという国の事業)に参加して、アオサの養殖技術を理研食品(株)と共同研究した。理研食品(株)は事業用の大規模な陸上生産システムの導入を進め、研究室ではアオサの生産技術開発を進めた。スジアオノリの陸上生産技術は、2004年に室戸岬で完成していたので、理研食品(株)の稼働させた「陸前高田ベース」でスジアオノリ事業を先行始動させ、アオサを後で導入することになった。実際に、試験的にアオサを「陸前高田ベース」に入れてみると育ったので、実用化まであと少しだ。理研食品(株)は、高知県内でもアオサの陸上生産をやりたいという意思に賛同してくれている。四万十市議会でも陸上養殖の話があったが、いずれやることになるだろう。

ただ、アオサの養殖については陸上養殖に乗り出す前に、やり方次第でまだ余地があると考えている。現場の人がしっかりと観察して原因を見極め手を打てば、採れるように戻るかもしれない。

アオサ陸上養殖 タンク培養用種苗多細胞化中

(4)高知大学名誉教授 大野正夫さん

長年海藻の研究を行い、かつては四万十川のアオサ養殖の指導をしていた大野正夫名誉教授に話を伺った。

Q四万十川のアオサ養殖導入時から関わってこられたと伺っていますが、その当時のことや調査の内容について教えてください。

1968年に高知大学に赴任してから、2001年まで四万十川のアオサ養殖に関わっていた。1960年代に加用物産が現在のアオサ養殖場を自前のブルドーザーで均して作った。その後、下流漁協が民有地を買取り、養殖場を拡大した。人工種苗生産が確立されるまでは、愛媛県から天然採苗を買って養殖していたが、70年代に人工採苗法が開発されて、人工採苗法だけで養殖を行えるようになったのは80年代。それまでは小さな小屋で少しずつ研究をしていた。夏は温度が高すぎて種がダメになるので、専用の建物が必要だと故・沖階吉さん(元下流漁協組合長)が役場に相談して、現在の種苗センターを建ててもらった。収穫量をデータとして残すために入札の記録も始めた。毎年、種付けから見に行って、冬は1か月に1回見に行く関係を続けていた。

現在の竹島川上流域は山林であったが、そこを農地改良する際、工事の泥水が養殖場に影響するのではないかという懸念から、漁協から定期的な調査を委託された。1989年から13年間、毎年130万円の予算で月に2回、水温・水質、アオサの成長状態を定点調査した。

Q長年の調査で見えてきた、四万十川のアオサが不漁になる要因は何ですか?

①塩分濃度と淡水化

13年間の調査で一番収穫量が下がったのは1993年。沖さんに観察記録をつけ続けてもらったが、それによると1993年11月14~16日に記録的な大雨で増水し養殖場内は1週間淡水化し、例年の収量の8分の1以下になった。これは一例だが、収量減少は大雨による淡水化が原因のことが多い。塩分濃度の高い水は下層を流れるので、大雨が降ったら養殖網をべったり下につけると守ることができる。大雨は淡水化と濁りが同時発生するので被害が甚大だ。種付けをした養殖網を5枚重ねて沖出しする10月頃に大雨の濁りが発生すると、重ねた網の間に泥がつきやすく、光合成を阻むので、一番良くない。

アオサの塩分濃度適応範囲は20PSU前後で、15PSUより下がるとだめ。一方で、塩分が高くなってしまうと伸びなくなる(だから海水中の天然アオサは2~3㎝ぐらいにしか伸びない。)ので、雨が程々に降る必要がある。汽水域での養殖だと大きいものは20㎝くらいまで伸びる。塩分が高くて枯れることはないが、塩分が低いと傷んでしまい、淡水化すると1㎝も伸びない。そういう理由でヒトエグサの年変動は激しい。

②管理

網の管理をしっかりしないといけない。雨が降った後は、泥がつくから長い竿でパタパタたたいて泥を落とすことが必要。塩分濃度が下がったときは、網を底に下ろす。そういった作業を徹底する必要がある。

③栄養塩

基本的な栄養素として窒素、リン酸、カリウムが必要で、海にはカリウムはあるが窒素とリン酸が足りない。窒素があると葉の色が濃くなり、たんぱく質をつくる。リンは葉の色を濃くし、光合成をコントロールし、代謝を高める。

養殖場の上流には二つの川が合流して、深く川幅は狭くなっている場所がある。その場所を拡げ、川の幅を同じにしたら、流入している海水と混ざって川の水にある栄養塩が均一に行き渡るのではないか。

Qそもそもアオサが育つ好適条件は何でしょうか?

雨がほどほどに降り塩分濃度・栄養塩が適した範囲にあり、水温が高めの方が良い。水温の上昇に刺激を受けて成熟する(成熟すると葉が接合子に成長し、短くなっていく)ので、2~3月の間、水温変化が少なければ収穫量は増える。調査から適水温があり、1~3月に11~13℃の範囲にとどまれば生育が順調であるとわかった。

Q様々なことを踏まえ今年の不作要因は何だと思いますか?

アオサの生長には塩分と濁りが影響を与える。水温が高めの方がよく伸びるが、水温で壊滅的な影響はない。壊滅的な影響を与える因子は、塩分と濁り。雨が降ったか降らなかったかを確認したい。

シオミドロが多いのは塩分が高いからだ。シオミドロの方がアオサより伸びが早いから、先に栄養分がとられているのではないか。葉が伸びるために一定の窒素とリンは必要。シオミドロは浮遊しているので、12月くらいに養殖網をたたいて落とすか網ですくいとる作業で一定防ぐことができる。

昔は3年に1回ほど耕耘して雑藻を抑え、下からの栄養をあげていた。栄養が足りないのなら耕耘をしたらどうか。また、たまり水は春になるとシオミドロの発生場になるので、整地してたまり水のような場所をつくらないようにするのも有効だ。

一昨年に収穫量0になったのは、種が網に十分ついていなかったからかもしれない。一切伸びないほど栄養分が不足することはない。管理すれば少しは伸びる。人工採苗は、20年間できていたことなので、難しい技術ではない。ただ、成熟しなければ遊走子は出ない。遊走子が大量に出ると、水中が緑色になる。顕微鏡で遊走子を確認し、たくさん泳いでいればOK。たくさん遊走子泳いでいて、網をつけたのに芽が伸びなかったら、それは環境の問題ということになる。

遊走子放出 接合子板の周りが緑になっている

栄養塩が不足しているのであれば、下水道の排出基準を見直してもらうこと、養殖場のでこぼこを作らないように整地すること、シオミドロの発生源を作らないこと。以前の沖階吉さんのように研究熱心な漁業者の働きが必要不可欠だと思う。

2アオサ不漁を考えるポイント6つ

取材を経て、アオサ不漁の原因を探るポイントは6つあるとわかった。①人工採苗の方法、②栄養塩(窒素、リン)、③養殖場の塩分濃度、④濁り、⑤水温、⑥雑藻。それぞれ、4者の話をまとめてみたい。

  • ①人工採苗の方法

接合子が完全に成熟していないと十分な遊走子が放出されず、養殖網への種付けが不十分となる可能性がある。その検証のために2022年から漁業指導所が関わり始め、接合子の成長を計測し、遊走子の放出も問題ないと確認されたが、2022年も不作となった。これについては現在検証中のため、明確なことがわからない状況。

  • ②栄養塩(窒素、リン)

家庭排水・下水道の排出基準が上がり、窒素やリンの河川への供給が少なくなった。ヒトエグサの成長に栄養塩が足りていない可能性がある。窒素やリンは光合成や藻体作りに関わる。成長に必要な量は河川に十分あるだろうという見解もある。調査データが見つからず(下図は国交省の水文データベースより作成したため、アオサ養殖場の値ではなく、下田の観測所のデータ。参考のため掲載している。)、養殖場に窒素やリンが必要量存在するか確認できていない。

下田 年平均総窒素変動
下田 年平均総リン変動
  • ③塩分濃度

淡水化(塩分濃度が低い)状態が長く続くと、アオサは枯れてしまう。実際に1993年は長期出水で収穫量が大幅に減った。一方で塩分濃度が高いと2~3㎝にしか成長しない。海水中のアオサが短いのは塩分濃度の影響が大きい。2022年は長期の出水がなかったので淡水化の可能性は低い。岸壁に生えていた天然アオサが伸びなかったのは、雨が降らず、塩分濃度が上昇したことが原因だろう。

竹島川雨量
下田 年平均塩化物イオン変動
  • ④濁り

長期の出水による濁水は、アオサの光合成も妨げる。1993年の場合は、淡水化と併せて濁りが原因で収穫量が落ちた。2022年は長期的な出水はなかったが、漁場がもともと干潟だったこともあり濁りやすく、出水以外の要因で濁りが発生していた可能性もある。養殖網を沖出ししてからの濁りの状況は、記録がないためわからない。

  • ⑤水温

温暖化で海水温上昇が世界中で起きている。海藻は全体的に高水温に弱いことが知られていて、アオサも少なからず水温上昇の影響を受けている可能性がある。また、水温変化が著しいと葉が短くなることもある。ただ、水温は壊滅的な影響を与えるわけではないので、今回のような収穫量がゼロになることはないだろう。

下田 年平均水温変動
  • ⑥雑藻

2023年3月の状況を見るとシオミドロの付着が多かった。塩分濃度が高いとシオミドロが発生しやすく、12月頃に繁茂を始めたのではないか。シオミドロはアオサより成長が早いので先に栄養を吸収し、アオサの種に重なって成長阻害をしていた可能性もある。ただ、シオミドロは浮遊性藻類なので養殖網をたたけば落ちる。シオミドロの発生時期を知り対処すれば、ある程度被害は抑えられる。シオミドロ以外にも他の生物相がアオサの生長を阻害している可能性はある。

2023年3月のシオミドロが大量に付着した養殖網

3人的要因と環境要因 アオサ消滅の危機は続く?

 アオサ不漁の要因を人的要因と環境要因の二つに分けて考えたい。

四万十川のアオサ養殖は人工採苗であるから、まずは技術の確認が必要だろう。指導所と下流漁協が検証を進めているが、専門家や経験者に相談し協力体制を強化することを検討してもよいかもしれない。漁協が進めるプロジェクトに期待したい。

環境要因に関して、淡水化と濁りが大きく影響を与えることがわかっているが、必要なデータ採取や観測が継続的に行われていないので、原因が特定出来ない。取材した皆さんが共通して課題だと思っていることだ。

10月初めから今年の種付けがはじまり、新たな展開があるという話も聞いた。現在も当事者の皆さんはアオサ復活に向けた原因究明と体制の構築に奔走している。青々としたアオサが四万十川で再び見られることを誰もが待ち望んでいる。

2021年3月の青々としたアオサ

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