いつも清流通信をご愛読いただきありがとうございます。梅雨に入ってジメジメした日が続いていますね。湿気がうっとうしく感じることもありますが、そんな気分をサッパリさせてくれるのが、今、旬を迎えているブルーベリー。ハリのあるツヤツヤとした果肉をほお張れば、甘酸っぱい爽やかな風味が口の中いっぱいに広がって美味しいですよね。四万十川流域でも、四万十町十和の小野地区でブルーベリーが栽培されており、今が収穫作業で大忙し。今回は、小野地区でブルーベリーを栽培している橋本章央さんと松元昭夫さんをご紹介します。
~退職後の楽しみに~

橋本さんは十和の広瀬地区で生まれ育ち、本業は製材所を営んでいる。町議会議員でもあり、財団のリバーマスターでもあり、以前清流通信302章でご紹介したこともあるが、OUCHI企画という合同会社も立ち上げている、本当にバイタリティのある方だ。一方の松元さんは、十和の十川地区出身で、地元の建設会社で勤務し、退職後の現在はブルーベリー農園の経営、販売に忙しくしている。十和と言えば、「鯉のぼりの川渡し」が有名だが、主催している十川体育会の会長を15年務め、実施に尽力してきた方だ。松元さんも四万十リバーマスターとして、財団事業にもご協力いただいている。橋本さんと松元さんがブルーベリーを作り始めたのは13年前。きっかけは、「老後の楽しみを見つけるため」だったという。


橋本さん:「製材所は営んでいましたが、60歳になって新しい楽しみを見つけたいと考えていました。そこで思いついたのが、ブルーベリー栽培です。もともと十和の小野地区に私の親が農地を持っていたので、条件的にやりやすかったのもありますし、ブルーベリーは背が高くないので景観的にも邪魔にならない、また根が浅いので、元の畑の状態に戻しやすく、もし管理ができなくなっても家族やご近所に迷惑をかけないで済むというメリットがあります。もちろん甘くておいしいし、売れたらお金にもなる。そしたら飲みに行くお金も稼げるしね。ブルーベリーで稼いだお金で松元さんと高知市内によく飲みに行っていますよ。家内には内緒ですけどね。(笑)」
松元さん:「私も定年を迎え、老後の楽しみを見つけなきゃなと思っていました。何もしないとボケが来るのも早いですしね。何を作ろうかといろいろ考えたんですが、参入しやすかったのがブルーベリーだったんです。ホームセンターで苗木も売られていますし、農薬を使わずに育てることができ、手入れもしやすい。わたしの場合は空いていた農地を借りて栽培していますから、返すときにもとの畑の状態に戻しやすいこともブルーベリーを選んだ理由でした。同じころ、橋本さんもブルーベリーを始めると聞いて、2人で高知市内の果樹試験場に視察にも行きました。最初から2人でやろうと話していたわけではなく、たまたま2人とも同じタイミングで始めようと思っただけで、本当に偶然なんです。」
橋本さんの農地は面積として3000㎡ほど、品種はおよそ20種類くらいあるというから驚きだ。自分の好きな味の品種を中心に、挿し木で増やしてきたそうで、今では約500本の成木を育てているという。収穫時期の今は地元の方にも手伝ってもらいながら、朝5時から2時間かけて収穫し、選別して冷凍している。朝のほうが気温も低く作業がしやすいのだそうだ。収穫期間は6月初めから8月中旬で、早生、中生、晩生それぞれのタイプを栽培し、収穫期間を長くしている。なかには500円サイズにもなるチャンドラーといった変わり種も栽培しているそうだ。松元さんの農園は「こいのぼりの里ブルーベリー農園」といい、収穫体験ができる。収穫の目玉としてお客さんに喜んでもらえるように、そういった品種も取り入れているのだという。


松元さん:「栽培を始めて5年くらいで本数も増え、実もたくさん採れるようになってきました。そこで8年前から収穫体験を始め、観光農園としても売り出しています。始めてしばらくした時に高知新聞が取材をしてくれたほか、シーズンになるとメディアが取材に来てくれるので、そのおかげで認知が広まったのかなと思います。地域の保育園児たちが収穫体験を楽しみに来てくれていますし、今は年間150人ほどのお客さんにお越しいただくようになり、高知市内から来られる方が多いです。リピーターさんも多く、年に数回も来てくれる人もいるので、ありがたいですね。」
収穫体験は7月から8月のお盆まで受け付けているという。リピーターも多いというのは、ブルーベリーが美味しいからというのはもちろん、四万十川の景色や、何より松元さんの穏やかで気さくな人柄も大きいのだろう。一方の橋本さんは、地域学習に訪れる大学生とも交流があり、学生が四万十に遊びに来た際には、川遊びをさせたり、ブルーベリーの収穫体験をさせることもあるそうだ。大学生にとっては四万十の自然を満喫できる最高の体験になっていると思うが、橋本さんにとっても若者との交流はメリットがあるのだという。
橋本さん:「若い人と交流することで、栽培のヒントを得ることもあります。例えば、甘いブルーベリーのほうが消費者にも好まれるだろうと考え、そういった品種を多く栽培していましたが、大学生に収穫体験をしてもらった際に、『酸っぱいのも味が濃くて美味しい、この品種のジャムもあれば買う人も多いと思う。』という意見をもらったんです。そんなふうに新しい視点を教えてくれるので、若い人と交流することは学びが多いですね。」


~オーガニック栽培へのこだわり~
お2人のブルーベリーは、ふるさと納税や四万十町のオンラインショッピング「リバーストア」をメインに販売されている。店舗では、道の駅あぐり窪川や道の駅四万十とおわで販売しているという。出品しているのは、生のブルーベリー(オンラインでは冷凍)とジャムの2種類。販売は主に松元さんが携わり、橋本さんは松元さんに出荷している形だ。取材時に摘みたてのブルーベリーをいただいたが、甘みが強く、爽やかな香りが広がってとっても美味だった。いろんな品種があるので、品種ごとに違った味を楽しめるのも面白い。こだわりのジャムは、ブルーベリー本来の甘さを味わってもらえるよう砂糖は少なめに、また自家製の柚子果汁を使用し、より爽やかな風味に仕上げているという。
さて、そんな美味しいブルーベリーを作るうえでのお2人のこだわりは、有機栽培であること。化学肥料を使わず、消毒もしない。除草剤も使わず、草刈をするか手作業で引いているという。その分手間はかかるが、だからこそ美味しいブルーベリーを安心して皆に食べてもらえるのではないかとお2人は話す。
橋本さん:「一番のこだわりは、無農薬で育てているということ。そのほうが環境にも優しいですし、コストもかかりません。すぐそばには四万十川も流れていますが、農薬は必ず川に流れていきます。川は私たちにとってなくてはならないものですし、毎年うなぎや鮎を獲って楽しませてもらっているので、農業をするうえでも四万十川に負荷をかけないようなやり方を選択するのは大切なことです。四万十川にも優しいですし、もちろん人間の体にも優しいものになっていると思います。そういったところを今後もっとPRしていかなければいけないなと感じますね。」


なお、2人の農園には木材のチップやかんな屑が敷かれている。これは雑草対策の他、土壌の保温効果もあるのだという。さらには、チップ自体が栄養になり、ブルーベリーが育ちやすくなるという効果もあるのだとか。除草剤なしでは大変ではないかと思ったが、木材チップを敷いておけば、生えたとしても草が根を張れず抜きやすいため、管理もしやすいのだそうだ。橋本さんももとは製材屋さんなので、木材も入手しやすいうえに、地元の大工さんに頼んでかんな屑を分けてもらっているとのことで、有機栽培がしやすい環境が整っているようだ。このように工夫をすることで、より効率的な農業ができ、それが持続に繋がっているのではないかと思う。
今回の取材を通して、お2人のブルーベリー栽培は、地域に根差したものなのだと感じた。身近な資源を有効活用しながら、なるべくコストをかけずできる範囲で栽培をし、より効率的な方法を模索し、環境にも優しい持続的な農業を営んでいる。流域の人々はもともとこのような農業を意識せずに続けてきたのではないだろうか。そしてそれが、四万十川の清流につながっていたのではないかとも思う。
最後に、今後の目標を聞いてみると、「飲み代を稼ぐために、あと孫にお小遣いをあげて、喜ぶ顔を見るためにこれからも頑張って続けていきたい」と話していた。そのラフさもなんだか四万十らしいなと感じた。
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