巷ではサウナブームが巻き起こっているらしい。テレビ番組や情報誌でもサウナが取り上げられ、サウナ―と呼ばれるサウナ愛好家たちが激増しているそうだ。そんななか、昨年の高知新聞で、四万十川でアウトドアサウナを楽しむ2人の男性が紹介された。1人は前回の清流通信でご協力いただいた宮崎聖さん、そしてもう1人が今回お話を伺った吉田健一さんだ。吉田さんは、サウナをきっかけに昨年四万十町の男性と共同して合同会社OUCHI企画を立ち上げた。今回はそんなOUCHI企画について紹介する。

左:吉田健一さん 右:橋本章央さん(提供:OUCHI企画)

四万十町西部に位置する十和地区。四万十川中流域にあたり、昔から林業で栄えてきた。そんな地域で長く製材所を営んできた橋本章央さんと、富山県出身で地域おこし協力隊として四万十町に移住してきた吉田健一さんが、この会社のキーマンだ。橋本さんは十和地区で生まれ育ち、製材所を営んできた。現在は四万十町の議員でもあり、ブルーベリー農家でもあり、四万十リバーマスターとしても財団に関わっていただいている。行動力に溢れ地域を想う気持ちが強く、都会から若者を受け入れては四万十の暮らしを体験させてあげたり、四万十で活動する学生団体と関わったり、地域と都会の若者をつなぐ受け皿としても活躍している。一方、吉田さんは地域起こし協力隊として2018年に四万十町に移住し、松葉川健一の芸名でパフォーマンスを行ったり、松葉川地区の活性化に取り組んできた。協力隊卒業後の現在も松葉川に住み、パフォーマーとして県内外のイベントに出演する他、松葉川青年団に所属し、メンバーと一緒に地区のイベントを企画したりするなど大忙しだ。

そんな2人が動かすOUCHI企画だが、実は昨年立ち上がったばかりの若い会社だ。きっかけは橋本さんの木に対するある思いからだった。

■燃やすだけなんてもったいない

OUCHI企画は、「先人たちが100年先の子孫を想い、育ててきた四万十の森と、森から育まれる豊かな四万十川を次世代へ」という想いのもと立ち上がった会社だ。きっかけは、バイオマス発電用の大量の木材が運ばれているのを見た橋本さんのお母さんが、「苦労して育てた木をただ燃やすためだけに使うがか。」と洩らしたことだった。この言葉が、橋本さんの胸に引っ掛かった。確かに、苦労して育ててきた木が燃やすためだけに使われるのはあまりにももったいない。それに、今山には伐採適齢期を迎えた良材がたくさん放置されている。戦後、先祖たちは建材となるスギ・ヒノキをたくさん植えた。良質な材木を売って子孫が豊かに暮らせるように、そんな思いで植樹し一生懸命育てた。それから50年60年が経ち、木材の価格は暴落。高齢化も追い打ちをかけ、わざわざ山に入る人もいなくなった。あれほど先祖が苦労して育てた木々は、伐採もされず放置され続けている。この状況を何とかしなければ、そう考えた橋本さんは行動を起こすことを決めた。

■OUCHI企画の誕生

橋本さんは長く製材所で培ってきた技術を生かして、地元産のヒノキを使ったタイニーハウスを考案、「小さなOUCHIプロジェクト」と銘打ち、町内で行われたビジネスコンテストに参加。先ほどの思いとともに構想を発表したところ、見事大賞を受賞した。これがOUCHI企画のベースになった。その2年後、今度は吉田さんが地域の空き家を活用したアート活動の拠点づくりを目指す企画でビジネスコンテストに参加。見事大賞に輝いた。2人の出会いは、そんなビジネスコンテストの打ち上げの席だったという。「当時から自分でテントサウナをDIYするくらいサウナにハマってたんですけど、橋本さんのタイニーハウスを知ったとき、『これサウナにできるんじゃないか』と思ったんです。当時橋本さんはタイニーハウスの活用方法に悩んでいたのもあって、じゃあタイニーハウスで移動式のサウナを作ってみようかという話になりました。橋本さんとは倍近く年が離れているにもかかわらず、すぐに意気投合しましたね。」

そんな出会いからわずか1年、2020年11月に合同会社OUCHI企画を立ち上げた。ものすごいスピード感だ。試作品ができると早速モニターを招いてお試し体験イベントを実施。そこでいけると感覚をつかんだ2人はテストや試行錯誤を重ね、サウナ本体や体験プログラムの販売を開始した。そうこうしていると、SNS等を通して四万十で野外サウナを楽しめるらしい、という噂が広がり、高知新聞に掲載された。これがきっかけで方々から問い合わせが来るようになり、四万十町内で開催された野外サウナイベントに協力したり、サウナ雑誌に掲載されたり、購入希望者からの問い合わせも増えてきた。「露出が増えたことで、体験してくれる人たちも増えていきました。そんな中で、『設置型サウナもあったらいいね』という声も聞かれるようになって、それに応えたくて、制作の検討を始めました。でも設置するとなると材ももっと太く頑丈にしなければならず、移動型よりもコストがかかることが分かって、金銭面の課題が浮上しました。そこで、クラウドファンディングをやってみようかということになりました。」

吉田さんたちは120万円を目標にクラウドファンディングに挑戦。2か月足らずで目標金額を達成し、最終的には150万円を超える資金を集めることに成功した。
「クラウドファンディングという選択肢を選んだのは、ただ単に資金集めのためだけではありませんでした。返礼品を地域のいろんな木工所に作ってもらうことで、この機会にいろんな木工所とつながりを作っておきたい、という狙いもあったんです。今商品を作ってもらっている所もその時のご縁がきっかけなので、クラファンを選択してよかったなと思っています。」

■四万十OUCHIサウナ

四万十OUCHIサウナは上で紹介した通り、移動型と設置型がある。どちらも四万十産ヒノキを使用し、木のいい香りが楽しめるほか、色を塗るなどの簡単なDIYができるので、自分好みにアレンジできるのも魅力だ。移動型の最大のメリットは自分の好きなところにサウナを設置できることだ。河原や自宅の庭など思い思いの場所に設置してサウナを楽しんでみてほしい。組み立ても大人2人で5分程度でできてしまうためとっても簡単。解体したサウナは軽バンに積めるサイズなので、移動もラクチンだ。一方、設置型は常設するタイプのため、移動型に比べて頑丈なつくりになっている。使用している薪ストーブはサウナのために独自開発したというから驚き。収容人数は、移動型が4人に対して設置型は8人となっている。

四万十川と四万十OUCHIサウナ(提供:OUCHI企画)

■職人の技が詰まった商品

合同会社OUCHI企画は、橋本さんの奥さんと橋本さんの2人体制だ。吉田さんはアドバイザーという形で関わっている。メインで動くのは橋本さんと吉田さんで、営業活動のほか、商品開発も行っており、橋本さんが考えたアイデアを、吉田さんが具体化していく。そして商品としてモノを作るのは地元の大工さんたちだ。「僕たちが整えたアイデアを、実際にモノにするのは地元の大工さんたちに協力していただいています。長年の経験と知識でこちらが提示したものより、より精度の高い作品に仕上げてくれるので、本当に頼りになりますね。一つ一つ手作りなので、それぞれのニーズに合わせて対応できることも強みです。大きな企業だと大量生産のため一定の規格のみで作られますが、うちはお客さんのオーダーに合わせて大工さんが調整してくれるので、より要望に沿った商品を提供できます。」

制作の様子(提供:OUCHI企画)

そんなOUCHI企画の商品は、サウナだけではない。サウナのベースになった橋本さんのタイニーハウスや、「サウナで使えるイスが欲しい」という要望から生まれた組み立て式スツールも販売している。「スツールも試作品段階では安定性に課題があったんですが、大工さんのところに持っていくとすぐに解決してくれて。おかげさまで、椅子だけで使うにはもったいないくらいいいものができたので、机としてPCの作業台にしたり、いろんな用途で使ってみてほしいですね。OUCHI企画は、山師が切った木を地域で製材して大工が家を建てる、かつては当たり前だったこのシステムを現代でも活かしたい、という思いを大事にしています。だから、地元の木を使うことをとても大切にしているんです。だからこそ、サウナにこだわらず、地元産の木を使って、時代のニーズを捉えたデザインで今後もいろいろな商品を開発していきたいと思っています。それだけで森林問題の解決につながるとは思ってないですが、この取り組みを知ってもらうことで、森林の現状を知ってもらえるきっかけになればいいなと思っています。」

■今後の目標

 OUCHI企画は、設立からまだ1年が経ったばかり。それでも体験プログラムの開発、サウナの販売、商品開発、クラウドファンディングと様々なことに挑戦した、目まぐるしい1年だった。来年には町が管理する宿泊施設にサウナが設置されることが決まるなど、まだまだ忙しくなる予感だ。走り出したばかりのOUCHI企画に、今後やりたいことを聞いてみた。「商品開発もデザイナーと手を組んでやってみたいですね。あと1つ、すぐにとはいかないかもしれないんですけど、事務所がある橋本さんの製材所を将来的に宿泊施設にしたいと考えていて、それも気軽にDIYできる拠点というか、木に触れる体験ができる施設にしたいんです。大きな建物を1つかまえるのではなくて、タイニーハウスを活用して整備出来たらいいですね。」とても素敵な構想を聞くことができた。そんな施設があればぜひ利用したい。たくさんの子どもや大人たちが四万十川を目の前に、DIYを楽しむ場所になるだろう。想像するだけでワクワクする。今回の取材で、OUCHI企画がはじまるに至った思いや、今後の目標を聞くことができた。サウナをきっかけに倍近く年の離れた2人が意気投合し、1年で会社を作り、一躍注目を集めるまでのプロジェクトを立ち上げた。2人の挑戦はまだ始まったばかり、持ち前のスピード感でこれからもどんどん新しい動きを起こしてくれるのではないか、お話を聞いてそんな期待を抱かずにはいられなかった。

■四万十OUCHIサウナ体験レポート

今回、吉田さんのご厚意でサウナを体験させてもらった。本来であれば河原にサウナを建て、水風呂代わりに四万十川に飛び込むというのが一般的なOUCHIサウナの楽しみ方だが、今回は時間も限られているということもあり、簡易版として製材所で体験させていただいた。

さて、サウナブームに付随して最近よく聞くようになった「ととのう」というワード。聞いたことはあるけれど、意味まではよくわからないという方も多いのではないだろうか。ととのうとは、交感神経と副交感神経が同居しているときに起こる感覚で、サウナと水風呂でアドレナリン最高潮に達した後、外気浴を行うことでアドレナリンが徐々に下がり副交感神経がだんだん優位になるが、アドレナリンが下がりきるまでには約3分ほどかかるため、その間交感神経と副交感神経が共存する形になる。その共存している間、脳と身体が最高のリラックス状態になり、あらゆる感覚が研ぎ澄まされるのだという。これが俗にいう「ととのう」なんだそうだ。この研ぎ澄まされた状態で四万十川の景色、音、空気を楽しむ、これが四万十OUCHIサウナの醍醐味なのだ。

まず、サウナの基本的な入り方だが、サウナ→水風呂→外気浴の順番で入るのが一般的。このセットを3回繰り返すと大体1時間だ。目安はサウナが10分、水風呂が2分、外気浴が5分くらいと言われているそうだが、自分の体の好きなタイミングで出てもいいとのことで、必ずしも時間を守る必要はないそう。そもそも北欧ではその辺あまり決まりがなく、時間を設定したりしているのは日本くらいなんだとか。外気浴で「ととのう」がやってくるので、外気浴の時間をしっかりとることが大事。

サウナの基本がわかったところでいざサウナに入ってみる。

中に入るとヒノキのいい香りで早くもリラックス。火入れで十分に熱くなった室内には県内の企業に特注したという薪ストーブが。もちろん薪は四万十のスギ。ガンガン薪を燃やして温度を上げていく。ストーブの上では砕いた屋根瓦が焼かれ、そこに水をかける(ロウリュ)と一気に蒸発して体感温度が増す。OUCHIサウナのこだわりは、材料はなるべく四万十産のものを使うこと。サウナ本体はもちろん、薪も焼き石(瓦)もロウリュで使う香料までも四万十産だ。入って数分、蒸気のおかげで肌が湿気を帯び、じんわり汗ばんできた感覚があった。1度乾式サウナに入ったことがあるが、その時感じた息苦しい暑さは感じない。確かに暑いが湿気があるからなのか、かなり過ごしやすく、長時間入っていられる。ロウリュをしてはタオルで熱気を回し体感温度を上げていく。室内の温度は最高で90℃程にまで上昇した。一緒に入ってくれた吉田さんは滝のような汗をかいていた。女性は割と汗が出てくるのが遅いらしい。

十分身体が熱くなったところで、サウナを出て水風呂へ。水風呂は沢水をプールにためてくれていた。サウナを出た瞬間、ひんやりとした外気が心地いい。人生初体験の水風呂に怯えながら、恐る恐る水風呂に入った。感想としては、普通に冷たい!!腰まで浸かり、1分程浸かったところで水風呂から上がって用意してくれていたベンチで外気浴。この時間が一番気持ちよかった。ととのうは正直わからないが、何となく頭がボーっとする不思議な感覚があった。ただ、まだ視覚がハッキリする感じはない。一方、サウナ―の吉田さんはととのっているらしく、とても気持ちよさそうにリラックスしていた。

2ラウンド目に入る。1回目よりも慣れたのか、身体に熱が残っているからなのか、サウナが心地いい。しばらくすると吉田さんがおすすめだという薬草の入浴剤をロウリュに混ぜてくれた。なんでも県内の医薬品会社の方とサウナつながりで親交があり、その会社んの入浴剤がサウナに打ってつけなんだとか。ロウリュをかけると室内にスパイスカレーにも似た薬草の香りが広がる。OUCHIサウナでは体験の際、希望があればロウリュに四万十産生姜か今回体験した薬草入浴剤を混ぜてくれる。体験するときはぜひ利用してみてほしい。10分くらい入った後、水風呂に入って外気浴。火照った身体が冷たい空気で冷やされていく感じがただただ気持ちよかった。今回は時間の都合上ここまでの体験となった。「ととのう」は体験できたかは正直ちょっとわからなかったが、木の香るサウナはとてもリラックスできたし、大満足の体験だった。今度は実際に河原で四万十の自然を感じながら本当のOUCHIサウナを楽しんでみたい。普通であれば冬に四万十川に入るなんて考えられないが、サウナなら冬でも四万十川を楽しめる。冬の観光メニューが少ない四万十にとって、通年で楽しめる新たな定番メニューになることを期待せざるを得ない。サウナ購入を検討する方はお試しツアーも体験できるので、ぜひHPをチェックしてみてほしい。吉田さん、橋本さん、今回は本当にありがとうございました!!

合同会社OUCHI企画

住所:高知県高岡郡四万十町広瀬211
TEL:090-2378-5466

OUCHI企画が気になった方はHP(☜をクリック)をcheck!!

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