いつも清流通信をご愛読いただきありがとうございます。11月に入って急に冷え込むようになってきましたね。四万十でも朝晩の気温が一桁台になる日もあるなど、秋をすっ飛ばして、もう冬が近づいてきているのではないかと感じる今日この頃です。
さて、そんな寒さがもたらしてくれる秋の楽しみの一つに、紅葉がありますよね。今、四万十でもあちこちで木々が赤や黄色に染まりだしています。四万十には紅葉が楽しめるスポットがいくつかありますが、中でも人気なのが、四万十市西土佐にある黒尊渓谷です。四万十川の水系のなかで随一の透明度といわれる黒尊川と、赤やオレンジ、黄色に色づく紅葉を一緒に楽しめるとあって、シーズン中には多くの観光客が訪れます。
紅葉をもっとたくさんの人に楽しんでもらい、黒尊の魅力を知ってもらおうと開催されているのが、しまんと黒尊むらまつりです。
今月の清流通信では、黒尊渓谷の紅葉の絶景と、しまんと黒尊むらまつりについてご紹介します。
黒尊川流域
四万十川の支流のなかで、水質が最もきれいだと言われる黒尊川の流域。口屋内、玖木、奥屋内下、奥屋内上の4地区で構成され、現在100軒近くが暮らしています。古くは良質な木材の搬出地として栄え、営林署や森林軌道などが整備されました。木材産業が衰退した今でも、森林軌道跡などは歴史を伝える遺構として大事に残されています。源流域には、モミやツガ、ブナなど多様な樹木が混生する原生林が広がっており、登山者を楽しませるだけでなく、黒尊川および四万十川の豊かな水量を支える水源涵養林としての役割も担っています。


住民組織「しまんと黒尊むら」
しまんと黒尊むらまつりを主催しているのは、住民で組織する“しまんと黒尊むら”です。今回は、同会事務局の山口昇彦(やまぐち・のりよし)さんにお話を伺いました。
しまんと黒尊むらができたのは平成17年のこと、今年でちょうど20年になります。黒尊川の清流や豊かな環境を守り、自然の恵みを享受しながら持続可能な地域社会の構築を目指すことを目的に結成され、黒尊川の清掃活動や入川道の維持管理、しまんと黒尊むらまつりの開催を継続的に行っています。結成から1年後には、高知県が指定する、四万十川流域内において優れた水質や動植物の多様性、良好な景観を有し、人と自然が共生している「共生モデル地区」に選ばれ、県・四万十市の三者で「黒尊川流域の人と自然が共生する地域づくり協定」を締結し、住民と行政が連携しながら、黒尊川流域の自然環境の保全と活力ある地域づくりを推し進める取り組みが始まりました。その一つが、しまんと黒尊むらまつりです。
「しまんと黒尊むらは、地域の自慢である黒尊川はもちろん、豊かな自然を守り、地域で協力しながら暮らしていくことを目的に起ち上げられた会です。会員は黒尊川流域の住民全員で、流域4地区のうち3地区から役員を選出して運営しています。当初は4地区全てから役員が出ていましたが、高齢化もあり、人が出せなくなってしまったようです。今は3地区から4人ずつ、計12名の役員が主要メンバーとなっています。主な活動は黒尊川の清掃活動や川に下りる道の草刈り、遊歩道の看板の整備、しまんと黒尊むらまつりやくろそん手帖散策ツアーなどのイベントを実施しています。昔は県と一緒に水質調査をしたり、ジビエの活用なども行っていましたが、地域の力も弱くなってきてしまい、活動できなくなってきました。いつまでこの会を続けられるかという不安もありますが、近ごろは移住してきた40代の方など、若い方も少し獲得できているので、心強いなと感じています。」
高齢化という課題に直面しつつも、20年にもわたって魅力ある地域づくりに取り組んできたしまんと黒尊むら。移住者が増えてきている背景には、そういった地道な活動によって、黒尊川流域に魅せられた人が多いからではないかとも思えます。
しまんと黒尊むらまつり
「しまんと黒尊むらまつりは、県・四万十市と協定を締結した際に、せっかくなら、紅葉の時期に紅葉のきれいな場所で締結式をしよう、それなら広く知ってもらえるようにイベントも併せてやろうということで始まりました。締結式には当時の橋本大二郎知事にも出席していただき、紅葉のもとで記念撮影を行いました。それ以降、コロナの期間を除き毎年このイベントを開催しています。目玉イベントは、黒尊川の紅葉を楽しむバスツアーです。会場の黒尊親水公園から黒尊渓谷までの約4㎞の間を、地元ガイドの案内のもと、黒尊神社奥の院、森林軌道跡に立ち寄りながら、黒尊渓谷に向かいます。黒尊の紅葉は県外から見に来られるお客さんもいるほどで、毎年多くの方がバスツアーに参加してくださっています。地域の自慢の一つなので、イベントを通してたくさんの方に黒尊の紅葉を楽しんでいただきたいですね。」

「一方で長くイベントを開催してきたなかで、課題も出てきています。当初は地域住民によるちらし寿司や、カニ汁、山菜おこわなど地域料理の振る舞いがあったり、紅葉の八面山を登山する体験メニューなども行っていましたが、高齢化に伴い住民に馬力がなくなってきたことや、柚子の収穫期と重なること、高知市内での大きなグルメイベントの日程と重なってしまうことなどから、地元の出店者や協力者が少なくなってきているのが現状です。今年も地元料理の提供は、ツガニやアユを予定していますが、餅つき体験もしてみようかという話になっています。課題も感じていますが、毎回趣向を変えながら来場者に楽しんでいただけるように企画も考えていきたいなと思っています。」
現在、しまんと黒尊むらまつりは、高知県や四万十市役所、集落支援員などが関わって運営されています。企画会議への参加や前日準備、当日のスタッフ、バスや備品の貸し出しなどを協力してもらっているとのことで、住民だけでは人手も足りないところがあるそうです。こういった行政側からの支援があることも、高齢化のなかでも開催が長く続いている理由だと思います。
地域の文化を伝える
高齢化で地域もだんだん元気がなくなってきたと話す山口さん。「今後は活動を縮小しながらやっていくことになるかもしれない」、そんな話を想像していましたが、意外にも山口さんが話す展望は明るいものでした。
「しまんと黒尊むらのなかに、ふるさとを見直す会というグループがあり、そこで『くろそん手帖』を使った散策ツアーなどを行っていました。くろそん手帖は、黒尊川流域を描いた白地図で、黒尊川と周辺の山々の緑、地名や主要な施設や看板、目印だけが描かれたシンプルなものです。地図には広い余白があり、その余白に自分が気になったものや発見を書き足していくことで、オリジナルのくろそん手帖を作ることができます。これまでも手帖を活用した散策ツアーを実施し、集落を歩きながら気になったもの、魅力に感じたものを手帖に自由に書き込んでもらうといったイベントもやってきました。このイベントもコロナ以降あまりできていませんが、今年から復活させようということで動き出しています。実は今夏、くろそん手帖を使った川遊びイベントを企画していましたが、雨のため中止になってしまいました。それでも、年明けごろにガネミソ(※モクズガニのみそ)づくり体験でもやってみようかという話も出ていますし、春には田植え、秋には稲刈りの体験イベントもできたらいいねと話しています。グループには四万十市の教育委員会や西土佐支所、集落支援員の方々も入っており、いろんなことをやってみようと前向きに関わっていただいています。郷土料理を作れる人も少なくなってきているので、地域に残る文化を少しでも多くの人に伝えられるよう、行政にも支援していただきながら、これまで以上に活発に取り組んでいきたいです。」


オリジナルの手帖を作っていく
しまんと黒尊むらまつり2025
11月15日(土)、今年もしまんと黒尊むらまつりが開催されました。会場となった黒尊親水公園には出店ブースが並び、駐車場は満杯に。役場からシャトルバスも出て、たくさんのお客さんで賑わっていました。地元住民からアユの塩焼きにツガニの塩ゆで、つきたてのお餅が提供され、ストローベイルSANKANYAの焼き菓子や、元しゃえんじり代表の平塚さんが作ったお弁当やまめにみその他、コーヒーや韓国料理、雑貨や木工ワークショップなど、地域内外から集まったさまざまなジャンルのお店があり、お客さんも買い物や店主とのおしゃべりを楽しんでいるようでした。特に盛り上がったのは、よさこいのステージ演舞。幡多地域のチームが踊りを披露し、多くの観客がカメラを手に見つめていました。演舞後には来場者も参加しての正調踊りが行われ、小さな子どももおばあちゃんも鳴子を手に踊るなど、小さいお祭りならではのほっこりした時間が流れました。





さて、今回イベントの目玉である紅葉ツアーにも参加させてもらいました。バスに乗り込み、目的地の黒尊渓谷に向かいます。道中も黒尊川の清流と色づく紅葉を眺めることができ、その景色だけでも十分きれいで、終点の紅葉スポットへの期待が高まります。最初の目的地は、黒尊神社奥の院。約3㎞下流にある黒尊神社の奥の院です。ここでは参加者にあるイベントが用意されています。それは、奥の院前にある黒尊渕に卵を投げ入れるというもの。実は黒尊神社の神霊である大蛇がこの渕に住んでおり、蛇が好きな卵を投げ入れて、割れなければ願いが叶う、という言い伝えが残っているそうです。早速わたしも卵をもらい、まずは奥の院の祠にお祈りしてから、渕に卵を投げます。深いところを狙ったので、無事に卵は沈んでいきました。他の参加者も割らずに落とせていたので、たくさんの願いが叶いそうですね。







次に向かったのは、水力製材所跡。林業が盛んだった時に、水車の力で製材をしていたそうです。神殿橋の堰から水路を引いていたそうで、昭和26年まで稼働していたとのことでした。どのような構造になっていたのか想像がつきませんが、当時の遺構が残っているのは貴重ですよね。また山側には森林軌道跡の高い石積みも確認できました。昔はトロッコが走り、ここから四万十川との合流地点まで木材を運搬していたようです。


神殿橋まではもうすぐ。紅葉の下を歩いて橋まで向かいます。参加者も写真を撮りながら散策を楽しんでいる様子。しばらくすると神殿橋の看板が。ここが黒尊渓谷のなかでも最も人気の紅葉スポットです。上流を見ると堰があり、流れる水と紅葉がとってもきれい。下流は黒尊川にかかる色とりどりのモミジの紅葉が絶景を作り出しています。先ほど立ち寄った水力製材所跡に引っ張っていた水路は、この堰から水を取っていたんですね。また、ガイドさんによると、昔は神殿橋上手の山中に黒尊神社があったそうですが、参拝が難しいため今のところに下ろしてきたとのこと。ちなみに黒尊神社は和歌山の熊野神社のわかれであり、格式のある神社なんだそうです。






紅葉を楽しみながら、黒尊地域の歴史にも触れることができました。15日の時点で紅葉はまだ5割くらいとのことだったので、その後の3連休はちょうど見頃になり、たくさんの観光客を楽しませたのではないでしょうか。 今年もまだもう少し紅葉が楽しめると思いますので、気になった方はぜひ黒尊渓谷を訪れてみてください。
