日本生態学会生態系管理専門委員会主催の自然共生サイト見学会に参加してきました。
午前中は、パナソニック共生の森について、中野隆弘さん(パナソニック株式会社)と赤石大輔先生(大阪産業大学)が話題提供してくださり、その後、現地視察しました。
「自然共生サイト」は、2025年度(令和7年度)より施行された環境省の「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律(以下、地域生物多様性増進法)」に基づく制度で、企業等が作成・実施する生物多様性増進計画を、環境大臣、農林水産大臣、国土交通大臣が認定するものです。

会場となったパナソニック草津拠点は、さすが天下のパナソニック、「東洋一の最先端工場」の名に違わぬもので、トイレひとつとっても凄かったです。創業者の松下幸之助さんがこの草津拠点を1970年に視察した際の「草津(工場)は、自然を生かして情緒的にできている。いや、そういう性質のものにしたいと思っている。」という発言が残されており、緑豊かな、地域の人にも親しまれる「公園工場」という側面をさらに強化していく大きな原動力になったそうです。

「普通種が普通にいられる森」のコンセプトのもと、2011年から「共存の森(1.3ha)」として具体的な保全活動が始まりました。まずは繁茂していたトウネズミモチ(外来植物)の駆除に始まり、基本的には自然植生の回復に任せながら、滋賀県在来樹木の植樹、苗木の育成活動などを進めていくうちに、約840種の生きものが利用する豊かな森に変貌を遂げたそうです。

さらに重要だと感じたのは、共存の森だけの点の保全活動に留まらず、午後から視察する「龍谷の森」や周辺に位置する「ダイキン滋賀の森」「BKC自然緑地」「田上山地」などを視野に入れ、共存の森を「エコロジカルネットワーク」の重要緑地と位置づけている事です。

エコロジカルネットワークとは、まとまりを持った樹林や草地、水辺など、生きものの生息地・繁殖地を緑地などの回廊(コリドー)でつなぎ、生きものの生息空間の確保を目指すものです。都市部の生物多様性を担保するためには特に重要な概念だと感じました。
エコロジカルネットワークを構築する上で重要なのが、産学の連携でした。共存の森では、大阪産業大学や京都大学との共同研究を行っています。その大阪産業大学の赤石大輔先生からも話題を提供していただき、研究テーマとして、生物多様性や地域個体群の調査はもちろん、地域住民・関係主体との連携もしっかりとテーマにあげ、仲介役として重要な働きをしたりしてしている事が分かりました。
現地視察:共存の森
では、実際に共存の森へ案内していただきましょう。共存の森は、もともとあった緑地を一旦リセットして人工的につくり上げた森ですが、できるだけ地域の里山をモデルとするため、野鳥などにより運ばれた種や元々敷地内に自生していたコナラからドングリを採取し、再生していったそうです。

また、残すべきものはきちんと残しています。これ(↓)は、敷地内に元々あったシナサワグルミの木です。在来の生態系に影響を与えるため、伐採する予定だったそうですが、いろいろな生きものの拠り所になっているため残したそうです。

その他にもカタツムリが梢を伝って移動できるように剪定や除伐を工夫したり、暗い所や明るい所を意図的に創り出したり、生きものの棲み分けができる工夫が見られました。伐採木もできるだけ有効活用し、チップにして道に敷き詰めたり、アカネズミのシェルターを作ったり、板にして道に敷いたりされていました。


ビオトープにも案内していただきました。工場の排水もそこに流れ込むようになっていて、油を流さないように従業員の意識向上に役立っていたり、万が一、有害な排水が流れ込んだ場合、遮断できるシステムにもなっているそうです。


龍谷大学「龍谷の森」を視察


次は、龍谷大学の「龍谷の森」へ案内していただきました。フィールド案内人は、同大学の谷垣岳人先生です。龍谷の森は、大学が開発を予定して、1995年に購入した森です。面積約38haの里山林で、昭和60年頃までは、薪炭林として利用されたり、マツタケの発生するアカマツ林もあったそうです。開発より森を保全し環境教育の場として活用を求める声が教員からあがりました。その後の調査で、オオタカ(絶滅危惧種)の巣も見つかったこともあり、開発反対の声がおおきくなり、森として保全することになったそうです。

2班に分かれて、まずは、北側に位置する研究エリアをトレッキングしていきました。所々、試験地や調査区がありましたが、あまり手入れされていないヒノキ林が多かった印象です。尾根付近には、丸い石がたくさんあり、かつては湖の底だったからだそうです。

しばらく歩いていくと、市民が大学の先生や学生と一緒になって維持管理している南側のエリアに辿り着きました。2003年に「龍谷の森里山保全の会」を立ち上げ、毎月第2土曜日の午前中に楽しみながら保全活動を行ってきたそうです。


コナラ林の小規模な皆伐を行い、明るい環境にすることによって萌芽や実生が育成できるようにしていました。伐採したコナラも無駄にせず、シイタケの榾木として活用し、森に来た人が自由に採って帰ったり、キャンパス内にも榾場を設置して、誰でも自由に採れる「みんなのきのこ」として振る舞っているそうです。とても良い企画だと感じました。
その他にも約1.5kmの小道(獣道?)を楽しくトレッキングしながら、いろいろ案内していただきました。




「生業のために持続可能な方法で自然を利用し管理することでも生物多様性は保全される」これが、龍谷の森の一番重要なエッセンスだそうです。四万十川流域でもこの含蓄あるエッセンスを取り入れていきたいですね。
しがネイチャーポジティブネットワーク

滋賀県琵琶湖環境部自然環境保全課の武馬弘幸さんより「しがネイチャーポジティブネットワーク」の説明がありました。近年よく耳にするようになった「ネイチャーポジティブ」とは、日本語で「自然再興」という意味で「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」ことを意味し、世界的な目標になっています。このネイチャーポジティブの実現するために、滋賀県では「しがネイチャーポジティブネットワーク」を設立し、それが自然共生サイトを核とした企業、地域団体、大学、行政機関等による情報共有の場となっています。こうした横のつながりが滋賀県の強みであり、環境保全先進地と呼ばれる所以を垣間見ました。
ワークショップ
最後に白川勝信さん(特定非営利活動法人ochibo)によるワークショップを行いました。

内容は、班に別れ、下記について意見を出し合うものでした。ただ受け身で参加するだけでなく、何かしらアウトプットすることの重要性を身をもって感じました。
もし自分がここに加わっていたら…
・何ができそうか?
・どんなことをやってみたいか?
・紹介したい人・団体は?
午前中の共生の森を視察する際も、白川さんが参加者の誕生日を使って、即興でバディ(相棒)を組み、感じた事などをお互いにおしゃべりしながら視察ができ、とても楽しく視察ができました。ありがとうござました!
新たな視点を手に入れられた、いい研修になりました。本講座を用意してくださった日本生態学会 生態系管理専門委員会の皆さん、、ありがとうございました。
