ウグイ(四万十川ではイダと呼ばれる)

コイ科

Tribolodon hakonensis

最も親しまれる川魚、恋の季節は美味しいウグイ

四万十川流域では一般的に「イダ」と呼ばれる。中土佐町大野見などの上流域では、12月~2月に渕底の岩陰に隠れているイダを、竹の先に縛り付けたイタチの皮で追い出して獲る「イタチ漁」を行っていた。獲ったイダは焼き干しにして出汁をとったり、炭火で焼いたり、一度空焼きしてから醤油と砂糖で甘辛く味付けて食べたりした。今ではこの時期に建網を入れることができないのと、イダを食べる人が少なくなったのとで、見ることが出来ない。

 

基本情報

【体長】

40㎝未満

【生息地】

四国瀬戸内川一部と琉球列島を除く日本各地で見られる。

清流の中流域を中心に、主に転石の多い淵に生息する。

コイ科の中で最も生態的分布が広い。

【体】

ハヤ体形で頭は細長く突き出る。

四万十川水系のものは少し他と違った特徴がある。成長に伴い、口が天狗の鼻ように突き出てくる。また、ウグイは春の繁殖期になると婚姻色が体側の腹側に鮮やかな朱色となって出てくるが、四万十川水系のものは他の流域より細く発色も薄い。これは、ウグイの降海型の特徴であり、その関連性があると考えられている。

【生態】

カワムツやオオキンブナと混生するが、ウグイはより警戒心が強い。危険を察知すると他のオイカワなどは中層で右往左往していることが多いが、ウグイは素早く転石の隙間などに隠れることが多い。

繁殖期は春。本流のやや深みで始まり、段々と支流へ移行していく。

他の川魚が棲めないような極度の酸性河川にも棲むことができる。

【食性】

雑食性。水生昆虫や付着藻類を食べる。時に、大型の動物の死骸を食いちぎることもある。

【味】

四万十川上流の辺りでは、繁殖期のウグイが食用とされる。

通常は、臭みが強いが、この時期は脂がのって美味しい。

イダの甘露煮や塩焼き、イダのかいさま寿司という食べ方がある。

「たちイダ」のウグイはなかなかいける!!

桜が咲く頃になるとウグイは小礫のある瀬に集まって産卵するが、これを「タチイダ」とか「イダが立つ」と言って、投網で獲る。サイ(苔)の付いていない礫を好むので、1メートル四方くらいを鋤簾などで掻いて礫を綺麗にし、そこにイダを寄せて獲ったりもする。中村近辺では「イダが立つのは申酉の日だ」といって、暦とにらめっこしながらイダを獲る相談をする人の姿が見受けられる。

普段は警戒心の強いウグイだが、このタチイダの時期は恋に夢中なのか網が近づいても気づかない。沸き立つように産卵をおこなっているため、素人でも大量に獲れる。

この時期のウグイは脂がのって美味しい。普段は臭みが強く食べられないが、この時期は甘露煮などにして食べる人も多い。

「イタチ漁」もあるよ!

四万十川には少しユニークな漁がある。

冬になるとウグイは群れになって淵の岩陰などに潜む。

12月下旬から2月に行われるウグイ漁で、ウグイがこもっていそうな岩に網を巻きイタチの皮を岩の穴に差し込むと、イタチの臭いを嫌ったウグイが穴から出てきて網にかかるのだ。この漁は上流域で行われていた。

参考資料

・四万十川の魚図鑑 いかだ社

・図鑑&料理 土佐魚のすべて 高知新聞社

・川の生物図鑑 財団法人リバーフロント整備センター