(その4の要旨) 山から木がなくなると土砂が流出し川は天井川化、海岸部では砂浜・砂丘の拡大が起きた。現代は化石エネルギーの使用により山に木が戻ったが、その一方でかつて一般的に見られたカタクリやリンドウといった野草類は二次的環境に適合していたものが多く、調査してみるとそれらは減少傾向にある。河原の植生も、ダムにより土砂の流出が抑えられるようになって河床の固化、複断面化や樹林化により生息地を奪われている。 歴史を振り返ればわかるように、いつの時代でも環境は人間の活動に影響を受けている。現在、生物多様性の重要性が叫ばれ、その保全が急務であるが、歴史的背景を踏まえた上で環境の変動、変化を考えていく必要がある。

山から木がなくなると土砂が流出し川は天井川化、海岸部では砂浜・砂丘の拡大が起きた。

この状況への対策として、山に木を植えて土砂供給を減らし、更にダムや砂防堰堤で土砂を止めるというようなことが行われた。

そして、日本は現在の緑豊かな森林の国となった。

しかし、これでハッピーエンドではない。その一方には失われたモノがある。それはたとえば以下に見る木のない山の恵み。

数百年以上にわたり人間が維持してきた環境には特徴的な生態系が成立し、現代では希少な生物種も生息している。

かつてはどこでも見られたような草原生植物は今現在どの程度生息しているのかを調べてみた。

調査の結果、出現頻度が8割を超えてくるのが5種、一方2割に満たない種が26種であった。これらの植物は減少傾向にあると考えられる。

影響はこれだけではない。ダムができたことで河川環境の攪乱は減少した。河川は複断面化し、定期的に攪乱があるという環境に適応した植物種は減少傾向にある。

海岸部においては砂浜がなくなり、海岸線が浸食されつつある。ただし、これについてはかつての土砂供給量が異常であり、むしろそれ以前の状態に戻りつつあるとも言える。

歴史を振り返ればわかるように、いつの時代でも環境は人間の活動に影響を受けている。現在、生物多様性の重要性が叫ばれ、その保全が急務であるが、歴史的背景を踏まえた上で環境の変動、変化を考えていく必要がある。

話しはこれで終わりではない。これから人類初の人口減少社会を迎える。土地利用は今後も変化する。人が山から離れるに従って、獣害の深刻化も起きるだろう。かつての山を見るとなぜ昔は獣害が少なかったのか一目瞭然。今は獣の生息域が人間の生活圏のすぐ目の前まで延びてきている。

繰り返しになるが、環境は常に人間の活動の影響を受けて変化している。過去は人類と自然が平和に共生していたというわけではない。その意味で「原風景」は常に動いている。どこに基準を置き、描く未来図をどう選択していくか。まず考えるべき大きな課題である。  ーおわりー

☆本メモは比嘉先生のご講演を基に事務局長神田がまとめたものであり、先生のお話そのものではありませんので、その旨ご了承ください。