財団では流域の小中学校、高校と一緒に環境学習を行うことが多いのですが、野外学習なのでネックになってくるのはお天気です。安全性を重視しなければいけないため、雨天の場合はもちろん延期ですし、雨が降っていなくても雷注意報が出ていれば延期になります。そのため延期の延期に次ぎ最終的には環境学習が中止になるということもしばしば…。本当は子どもたちと川に行って生き物を観察できれば一番いいのですが、雨でも環境学習ができるツールはないものか…。
そんなとき、先日参加したこうちプラン大賞にて、樹脂で水生生物を閉じ込めたアクリル標本を発見!!標本を顕微鏡で観察すれば、水生生物の細部まで観察することができます。これはいい!これなら外で環境学習ができなくても水辺の生き物を観察してもらえる!これはやるしかない!ということで、財団でも作ることを即決し、講師の石川妙子さんに連絡し実践することになりました。

石川さんに連絡すると2つ返事で快諾いただきました。ありがとうございます!石川さんから、標本にする前に、虫の水分を抜くために、アルコールに漬けておく必要があることを教えてもらいました。水分が残っていると、固めたときに白濁してしまうので、水分をしっかり抜いてタンパク質だけにしておくのが大事なんだそう。そこで毎度おなじみ四万十町の四万十川振興室を誘って、四万十川に水生昆虫採取に向かいました。渇水で水が少なかったですが、いいサイズの虫をたくさんゲット。捕れた虫は事前に用意しておいた80%のアルコール液にすぐさま漬けます。採れてから時間がたつと虫が脆くなるため、なるべく生きた状態ですぐにアルコールに漬けることが肝心です。(アルコールに漬けられてもだえる虫たちの姿はかなり心にくるものがありましたが…)この後2,3日ごとに徐々にアルコール濃度を上げながら水分を抜いていきます。最初は80%、次に85%→90%→95%、最後に100%に2回漬けます。漬けておくだけでも約2週間かかりました。いい感じに水分が抜けて、終盤には虫たちはカラッカラになっていましたが、割と色はきれいに残っていました。さあいよいよ次はアクリルで固めていきます。

石川さんにも来ていただいて、アルコール漬けした虫たちをアクリルで固めるやり方と、固めたアクリルをきれいに研磨する方法を教えてもらいます。アクリルを固める作業は十分に換気ができる部屋か屋外で行います。アクリル樹脂が固まるときのにおいが結構強烈だからです。この日は屋上を使わせてもらって作業を行いました。

用意する道具は、FRP樹脂、凝固剤、調色セット、スポイト、無水エタノール、新聞紙、段ボール、ビニール手袋、キッチンペーパー、タッパー(または製氷皿)、竹串、アルコールに漬けた虫。樹脂はベタベタして手に付くとなかなか落ちないので、手袋をして作業をします。まずは、FRP樹脂に凝固剤を入れて樹脂液を作ります。今回はFRP樹脂400ccに対して5ccの硬化剤を混ぜました。これをモヤモヤがなくなるまで混ぜると樹脂液の完成です。できた樹脂液をだいたい5㎜くらいタッパーに流し込みます。これで1回固まるまで1時間ほど待ちます。固まったらその上に虫を置いて液を流し込みまた1時間放置、そしてまた液を流し込んで1時間放置、液を入れて固めてという作業を合計3回繰り返します。1時間待っている間に液が固まってしまうので、そのつど液を作り直して作業を行います。型になるタッパーは底が平らなものを使うと凸凹がなく虫を観察しやすいので、おすすめです。


固まるのを待つ間に、研磨作業を教えてもらいました。アクリルをやすりで磨いてピカピカできれいな標本にしていきます。用意するのは水を張ったバットと耐水性紙やすり。紙やすりは#100、#400、#800、#1000、#2000のものを用意します。まずは水を張ったバットに紙やすりを浸して一番粗い#100でアクリル樹脂を磨いていきます。目視で均一に削れているかを確認し、スモークガラスのようになったら今度は#400で磨いていきます。ここで大事なのが、やすりを変えるときにバットとアクリル樹脂をきれいに水で洗い流しておくこと。やすりの砂が残っていると、そこだけ粗く削れてしまうのでもう1回やり直しになってしまいます。また均一に磨けたら、バットとアクリルを水で洗って、今度は#800。この作業を#2000まで繰り返します。この時点で表面がかなりサラサラになってきました。やすりで磨き終えると今度は液体クレンザーで磨き、最後はピカールでピカピカに仕上げます。これで研磨作業は終了です。最初は少しざらざらしていた樹脂がツヤツヤピカピカになりました。磨く際に角を落としておけば、子どもに観察してもらう際にも安心です。

作業を終えて戻るとしっかり樹脂が固まっていたのですが、容器を持ってみると、ちょっと熱い!(あとけっこうな匂い…)実はアクリルが固まる際、熱が発生するそうで、夏場に行うと暑すぎて急速に固まったことでヒビが入ってしまったり、逆に冬に行うと気温が低いため固まるのに時間がかかったり…そんなこともあって春ごろに行うのが1番やりやすいのではないかと教えていただきました。樹脂を注ぐ前に、固まる際にできた気泡やゴミを竹串で取り除いていきます。きれいになったら、アルコールに漬けた虫を取りだし、軽く拭いてから樹脂の上に置き、すぐに虫がギリギリ浸かるくらいまで液を流し込みます。アルコールから取り出した虫は放置しておくとすぐに変色してしまうため、なるべく早く作業を行うことが大事だそうです。ここでまた1時間放置し、固まったら気泡とゴミを取り、また5㎜程度樹脂を入れて固めます。これで作業は終わりです。あとは2週間ほど放置し、その後研磨作業を行って完成となります。

そうやってできたのがこちら。初めてにしては結構いい感じにできたのではないかと思います。氷サイズに虫が固まっているのが何だかかわいい。これで外に行けなくても子どもたちに水生生物を観察してもらえそうです。これからもっと種類を増やして、標本を充実させていきたいなと思います。これを使って子どもたちと一緒に学習できるのが、とっても楽しみです。協力していただいた石川さん、四万十川振興室の皆さん、本当にありがとうございました。