いつも清流通信をご覧いただきありがとうございます。9月に入ってもまだまだ暑い日が続いていますが、季節は実りの秋、新米の季節がやってきましたね!四万十川流域の棚田も黄金色に染まり、今の季節ならではの美しい風景が広がっています。さて、棚田に欠かせないのが、石積み。幾重にも重なる石積みは、棚田の美しさを作り出している一つの要素だと思いますが、そんな石積みが近年減少してきているのをご存じでしたか?崩れた石積みはコンクリート擁壁にとって代わり、石積みの懐かしい農村風景がなくなりつつあります。一つの原因が、石積みできる技術者が減少していること。高齢化などで、昔は地域に必ずいた石積み職人がいなくなり、またその技術が受け継がれていないことが減少につながっています。


そんななか、石積みの技術を後世に伝え、日本の美しい農村景観を守ろうと、全国各地で石積みを修復するワークショップを行っている団体があります。一般社団法人 石積み学校です。これまで全国200箇所以上でワークショップを行い、数多くの石積みを修復し、その技術を伝えていますが、若い世代にも石積みの技術や魅力を伝えたいという思いから始まったのが、高校生が石積みの技術を競う「石積み甲子園」です。記念すべき1回目は、2023年徳島県の神山町、2回目は昨年愛媛県松山市興居島で行われました。そして3回目の開催地に選ばれたのが、ここ四万十川流域。国の重要文化的景観にも選定され、農地や水路など集落のいたるところで石積みがある四万十でも、石積み技術の継承が課題になっています。事務局から高知開催の相談を受け、微力ながら当財団もお手伝いさせていただいているところですが、どうせ四万十でやるなら、ぜひ地元高校にも出場してもらいたい!ということで、流域の学校に営業しました。結果、協力してくれることになったのが、高知県立四万十高等学校のみなさん。快く出場を引き受けていただいて本当にありがとうございます!四万十高校は、四万十川の豊かな自然をフィールドに、地域の人々との連携を活かした幅広い教育機会が充実しており、少人数だからこその手厚いサポートを受けられる、とても魅力的な高校です。全国でも珍しい、環境学習に特化した自然環境コースがあり、川や海のつながりや、森林の役割について、フィールドワークを通して学ぶこともできます。今回参加してくれるのも、自然環境コースの2年生、5名の生徒たち。11月の本番に向けて、現在一生懸命練習に取り組んでくれています。今回の清流通信では、そんな高校生たちの練習の様子を少しご紹介いたします。


強力なサポート体制
まず、今回参加してくれるメンバーを紹介します。自然環境コース2年生の、佐々木君、中平さん、藤田君、前田さん、矢下君です。佐々木君は名古屋から、藤田君は愛媛県鬼北町から、矢下君は神奈川県の川崎市から四万十高校にやってきたそう。県外から四万十高校を選択して通っている生徒がいるのはすごいですね。中平さんと前田さんは四万十町出身で、この5人でいつも授業を受けているそうです。これまで1年半、5人でいろんな学習をしてきているので、コミュニケーションもバッチリそうですね。実は生徒たちに、なぜ今回参加してくれたのか聞いてみると、「河原で遊ぶロックバランシングのような石積みだと思っていたので、みんなでやったら思い出になると思った。まさかこっちの石積みだとは思ってなかったので、最初説明を聞いたときはびっくりしました。」と、教えてくれました。

さて、夏休みも明けていよいよ本格的に練習がスタートしました。高校側に生徒たちに練習日程の相談をしたところ、9月の毎土曜日の4日間、10月も金曜または土曜日の4日間、計8日間の希望日が上がってきました。勘違いから決まった出場とはいえ、高校生、めちゃくちゃ本気です。そんな高校生のやる気に応えられるよう、練習にあたって、石積みを教えてくれる講師として2人の方にご協力をいただいています。
1人目は、土木・建設コンサルタントの西山穏さん。流域の文化的景観の保全・活用にもご協力いただいているほか、石積み甲子園の立ち上げに初期から関わってきており、甲子園での審査員も務めていらっしゃる方です。財団の理事もおつとめ頂いてます。
2人目が、四万十町内で農業を営む畑俊八さん。畑さんは農業の傍ら、国道沿いの谷あいのスペースを買い取り、そこを石積みもしながら自ら整地して、平屋をセルフビルドしているという方。今回の練習場所も、畑さんが提供してくれました。畑さんにはさらに「今後自分も必要になるから!」と、石積みの練習に使う積み石にグリ石、石箕(いしみ)などの道具もご用意くださいました。学生への惜しみないサポート、頭が上がりません。今回の練習は、高校の先生方はもちろん、お2人のサポートのおかげで実施できております。この場をお借りして、改めて感謝申し上げます。


いよいよ練習スタート!
この強力なサポート体制のもと、9月6日(土)から、2か月にわたる高校生たちの練習が始まりました。実は夏休み前に、大会主催者・石積み学校の金子さんが四万十を訪れ、石積みの基礎知識と基本の技術を教えてくれていましたが(その様子はブログにて紹介しております。)、約2か月ぶりの練習ということで、前回のおさらいも踏まえて、石積みの構造や基礎を確認しながら練習を始めました。今回のメイン講師は西山さん。ホワイトボードを使って、石を積む際のポイントを確認していきました。一番下に置く石を根石といい、大きなものを選び重心が奥に傾くように置くこと、石を積んでいく際は、お尻下がりになるように置くこと、次の石を置くときのことを考えてなるべくV字の谷ができるように置いていくこと、3点・最低でも2点は接するように石を乗せること、積み石がぐらつかないようにグリ石で固定し、残りをしっかり詰めていくこと、石積みが膨らまないように勾配の目安になる水糸を意識して積んでいくこと、など大切な知識がたくさん共有されました。高校生も時折質問をしながら、積み方の理屈を理解しようとしているようでした。


あとは実践あるのみ。西山さんにサポートしてもらいながら、早速作業に取り掛かります。この日の練習では、床掘を丁寧に行い、時間内に積めるところまで積んでみることを目標に実施しました。まずは生徒で手分けして床掘りを進めていきます。小石もたくさん出てくるので、土と石を選別しながら固めておいてもらうなど、本番さながら、効率的に作業を行う環境づくりも意識しながら作業してもらいました。実は、この床掘の作業は一番時間がかかったりします。中腰で土を掘っていくのは体力もいるので、交代しながらやりました。だいたい20センチほど掘れたら、勾配の目安になるよう板を固定し、水糸を張ります。今回は2分勾配の石積みになるよう調整しました。勾配という言葉も、勾配を測るためのスラントを見るのも初めての生徒たち。石の積み方だけでなく、それに付随するいろんな知識や体験ができるとてもいい機会になっていると思います。この日はスラントだけでなく、バックホーの操作も体験させてもらい、「楽しい!」と満足気でした。





さて、糸が張れたらいよいよ根石を置いていきます。大きくてかつ尻下がりになっている石、根石にちょうどいい石を見つけてくるのも大事な作業です。西山さんにアドバイスをもらいながら、3人で活発に相談して根石を置いていきました。根石が置けたら、グリ石を詰めて、2段目に。下段の石との接地の仕方、上段に来る石との接地の仕方、勾配など、気にしなければいけないことが多く、高校生も苦戦している様子でしたが、西山さんや畑さんにアドバイスをもらって進めていきました。積み石がグラついていたり、尻下がりの傾斜が急すぎる際には、グリ石で咬ませて調整するなど、今回の練習を通して講師からたくさんの技を教えてもらうことができました。この日の練習は3段目まで積んだところで時間切れ。次回練習では、残りの石積みを積み上げることを確認して終了しました。









高校生だけで石を積む!
2回目の練習でも講師のお2人にサポートしていただきながら、無事石積みを積み終えた高校生たち。3回目の練習では、前回までの反省点を振り返りながら、出来上がった石積みを崩して、今度は高校生だけで積んでもらいました。反省点を振り返るなかで、「下段のほうでも積み石に小さい石を使ってしまっていた」「水糸があまり意識できていなかった」などの意見が出ており、何がダメだったか、次はどうしたらいいかにしっかり気付けているところに成長を感じました。一生懸命取り組んでくれている証なのだと思います。崩す際にも、役割分担を指示したり、1人1人が次の行動を予測して動けていたので、スピーディーに作業を進められていました。いつも5人で行動しているからこそのさすがの連携力ですね。今回は前回の根石を活かし、2段目から自分たちの力だけで積んでもらうことにしました。まずは根石にグリ石を詰めていきます。グリ石を石箕にわけて準備しておく人、グリ石を入れる人と、自然と役割分担できていたのがとても印象的でした。積む際にもよくコミュニケーションをとっており、「その置き方だと隙間の形があまりよくないのでは」「3点が当たってない」「上が平らになってしまうので置き方の角度を変えてみよう」などなど、密に意見交換しながら作業を進めていました。また、使えそうな石を選別してまとめておく、グリ石をまとめておく、ストックが足りなくなったら補充するなど、それぞれが役割をもって動けていたので、これまでよりも速いスピードで石を積むことができ、1回・2回の練習で積んだ高さと同じ高さを2時間半で積んでみせてくれました。スピードが上がっただけでなく、精度もきちんと上がっており、講師からも上出来だとほめてもらえるほど。一部目通り(石を一直線に積んでしまうこと)になっている箇所もあったので、そこは反省点として確認しましたが、3回目とは思えないほど上達している生徒たちに、大人たちも驚きを隠せませんでした。生徒たちも、効率が上がっていることを実感しているようで、「あとは正確性を上げていきたい」と話してくれました。









大会本番に向けて
生徒たちに石積みの感想を聞いてみると、「コミュニケーションをとりながら、みんなで石積みを作り上げていっているのが楽しい。楽しみながら伝統的な技術を学べるとてもいい機会だと思います。先日、大月町に環境学習に行ったときに、集落の石積みに目が留まり、みんなできれいな石積みだねと話していて、自然と石積みに目が行くようになったことに自分たちでも驚きました。今まで気にすることもなかった石積みが急に見えるようになったのは、とても面白い感覚でした。」と話してくれました。
これまでの練習でもかなりの上達を見せてくれた生徒たち。残り5回ほど練習が残っているので、これからもどんどん精度が上がっていくのではないかなと期待が膨らみます。生徒たちに、大会までへの意気込みを聞いてみると、「まずは崩れないように積みたい。3点当たることを意識するなど、石の置き方はまだまだ難しいなと感じていますが、少しずつ理屈はわかってきていると思います。1人で考えずに、みんなで意見交換しながら積み方を考えること、それぞれが手持ち無沙汰にならないよう、協力して作業することを意識して、これからも練習を頑張っていきたいと思います。」と答えてくれました。
本番まで残り約1か月。高校生たちの成長が楽しみですね。ぜひ皆さんも高校生の挑戦を応援しに来てください。

第3回石積み甲子園
日時:11月2日(日)9:00~16:00
場所:四万十町大井川の農地(住民センター近く)
出場校:高知県立四万十高等学校、高知県立安芸高等学校、愛媛県立伊予農業高等学校、
愛媛県立愛媛大学付属高等学校、徳島県立城西高等学校神山校
