四万十川流域では、流域5市町(津野町・梼原町・中土佐町・四万十町・四万十市)の教育委員会と高知県文化財課、それに私たち四万十川財団が一緒になって「四万十川流域文化的景観連絡協議会(長いので普段は「文景協」といいます)」という会を作り、情報共有や文化的景観を活かした連携事業を行っています。平成25年からの3年間は全国の大学から学生、大学院生を招いて流域の景観を学び、活かし方を考える『四万十川流域学生キャンプ』を行いました。さらにその経験から自分たち自身がもっと地元の景観について理解を深めておく必要があることに気づき、平成最後の2年間は各市町が順番で幹事となり、足下の景観を知るための現地研修を行いました。それが一周りしたので、今年度は景観をどう活用していくかを課題に研修を続けています。

その一方で、外を見て知ることも大事だということで、他の重要文化的景観選定地について学ぶ機会があれば出来るだけ参加するという申し合わせをしています。お隣愛媛県西予市の狩浜が今年2月に重要文化的景観に選定され、それを記念してシンポジウムを行うというので参加してきました。

「宇和海狩浜の段畑と農漁村景観」 国重要文化的景観選定記念シンポジウム 狩浜らしさを活かした地域づくり

シンポジウムに先立って、エクスカーションがありました。

○エクスカーション
狩江の段畑 桑畑から櫨(はぜ)畑、そして柑橘類へと時代時代で上物は変わっています

パンフが素晴らしいので載せますね

お昼をはさんでシンポジウムです。テーマは「狩浜らしさ(文化的景観)を活かした地域づくり」。

まず、文化庁の下間久美子調査官の基調講演「文化的景観を活かした地域づくり」

まだ一般には馴染みの少ない重要文化的景観の保護制度について、「文化財保護」と「文化財保護行政」、「重要伝統的建造物群保存地区制度(略称:重伝建)」と「重要文化的景観保護制度」とを対比・比較しながら、その理念、意義に至るまでつっこんだ話しをしていただき、勉強になりました。中でも、特に印象に残ったのは以下の話しです。

有機的な繋がりの関係性により価値が生み出される文化的景観は、重伝建と同じく1つの視点だけから評価したり、要素にばらして保護したりするのは困難だ。また、どの観点で重要だと考えるかにより守り方も変わってくる。こういった性質を持つ文化財ゆえに、これを守る制度の適合不適合がある程度ゆるくできているところがミソ。他制度より広いグレーゾーンの中で当事者たちが意見をすり合わせていくことが肝要で、最終的にはそういったことの出来る人を育てられる地域だけが、この制度を街づくりに取り入れられると考えている。

適合不適合の境界線が明文化されていないからこそ、各地域の実情にあわせた守り方が可能になってくるということです。文化的の景観の面白いところでもあり、人によっては難しく思うところですね。

さて、基調講演に続いて地元からの活動報告がありました。

石垣を崩すイノシシとの格闘、祇園丸の環境食育活動、かりとりもさくの未来のために「種を播く」活動、最高齢85歳のガイドの会の熱量、どの活動も勉強になりました。

最後はパネルディスカッション。狩浜の海里山の繋がりがよく分かって面白かったですね。パネリストの宮本春樹さんがこんな表現で狩浜を説明していました。

狩浜は臼みたいなところ。若いときは海畑へ出て鰯を獲ってきて、それを干鰯にして搗く。その鰯を畑の肥料にする。年をとったらおかに上がって山畑へ行き、芋を作ってそれを搗く。そうやって暮らしている。ここでは海(おき)も山(おか)も里のすぐそばにある畑なんだ。

また、40年にわたり有機・減農薬で蜜柑を育てている無茶々園のお話を聞いて、ここが自給自足を軸としながら、江戸時代以来商品作物を作り続けてきたDNAが受け継がれていることを実感しました。

パネリストもおっしゃっていましたが、通常なら重要文化的景観選定をスタート地点として住民に概念の周知を計るのが順序だと思いますが、ここはすでにそれが出来ているところからスタートしている。これからの動きが楽しみですね。