今、四万十川大人塾をはじめる理由

四万十川流域は継承の瀬戸際

四万十川の魅力はひとが川と生きていることにあると思う。

昔から人々は、四万十川の水を生活や農業に使い、川の幸を享受し、涼や遊びも川にあった。一方で、水害で田畑が浸かり、家財が流され、生活が厳しくなることもあった。人々は川という自然と上手くつきあいながら暮らしてきた。これが四万十川の文化でありかつ魅力である。

今、四万十川流域でも少子高齢化が進み、人が川と生きてきた文化が途絶え始めている。正直に言えば、四万十川で暮らすことは便利とは言い難い。生活様式が変化し、川に行かずとも快適に生活できるようになった。川から人が離れはじめ、子どもたちは川と生きる文化に触れる機会もなくなり、文化を繋ぐことが難しくなってきている。一度途切れるととり戻すことが難しい文化だからこそ繋いでいかなければならない。

今、四万十川は川とともに生きる文化継承の瀬戸際である。

高樋沈下橋と子どもたち

四万十川大人塾

大人になってから伝統技術や文化を学びたいと感じる人も多くいる。しかし、大人には学び場がなく、教えてくれる人を見つけるのも大変だ。そこで、私たち四万十川財団(以下財団)は、川文化継承の機会と場づくりをしようと考えた。財団には、四万十リバーマスターという強力なサポーターがいる(流域に約100人)。この人々こそが文化を受け継ぎ伝えていく主体になる人々だ。四万十川の達人である彼ら彼女らは、日常に四万十川があり、観光客等の安全を見守る活動を含め、長年四万十川保全のサポートを続けてくれている。

学びたい大人と四万十リバーマスターを結ぶ場が「四万十川大人塾」である。四万十川大人塾では、四万十リバーマスターが次世代に四万十川の文化を直接教えていく。目指すところは、川とともに生きるひとが四万十川の文化を伝えていく場をつくり、次世代を育て、四万十川の価値を守る一手としていくことだ。

自分の肌で体感せよ

 四万十川大人塾では、体験を大事にしている。文化は、暮らしの中でつながれていくものだが、それが難しくなっている今、ただ知識として獲得するだけではなく、体験を通して伝わる機会が重要だと考えているからだ。体験して、その面白さや楽しさを知ることが大切で、その魅力を知り継続したいという人には、自身の暮らしに組み込んでもらいたい。自分の肌で体感しとことんしみ込ませてもらいたい。

四万十川大人塾の1年間

参加条件の設定と企画の設計

 1年目の四万十川大人塾は、安全面と講習の質を考えて1年間メンバー固定の10名を定員とした。いずれ次の世代を育ててもらうことを考え、対象年齢を50歳以下に、学びを日常に組み込んでほしいので四万十川流域に関わる人を条件にした。

 2021年、開講年のテーマは「川漁」。全7回で毎回異なる川漁を学ぶ。講師の四万十リバーマスターと相談しながら、実際の川の状況と参加者の体力をみて内容をくみ上げた。事前にリハーサルを行い、スタッフも体験を通したサポートができるように工夫した。様々な川漁を知り、自分が好きなものを見つけ自ら実践してもらいたいと考え、道具作りやエサの取り方、川の見方などの基本をしっかりと伝え、応用ができるようにしている。

四万十川大人塾2021「川漁」

・第1回 鰻漁

 1回目は、川漁のルールや注意点を学ぶ基本講座を行い、その後、支川藤の川で鰻の延縄漁に挑戦した。講師は藤の川在住の武内幸男さんだ。鰻漁は夕方に仕掛け、翌朝回収するのが基本のため、2日間の行程とした。1日目に仕掛け作りからエサ獲り(ハヤンボ釣り)、川への仕掛け設置をする予定だったが・・・突然の雷雨でハヤンボ釣りは中止。藤の川も一瞬にして大増水の泥濁り。しかし、この状況は鰻漁にとっては好都合である。晴れたので武内さんがミミズを見つけてきて、大増水の中に仕掛けを投入した。

 翌朝、再び集まって仕掛けをあげた。かかっていた大きな鰻が仕掛けから脱走するという悲しい事態もあったが、無事に2匹の鰻をゲット!鰻捌きのプロである林大介さんに来てもらい、鰻を生きたまま捌くことを体験した。捌いた鰻はその場で炭火焼きし、わさび醤油で食べてもらった。

・第2回 川エビ漁

 川エビ漁は、支川目黒川で行った。講師は、地元の岡村猛さん。この漁に欠かせないのは漁師が一から作るエビ筒。そのエビ筒を作るところからスタート。使い慣れない道具に苦戦しながらも1人2つ以上完成。川へ仕掛けに行き、獲れそうだと思う場所に仕掛けていった。

 2日目の翌朝、大きくておいしそうなエビが獲れた。エビが獲れやすい場所も学ぶことができた。獲れたてのエビを塩焼きや塩ゆでにしていただく。これまた足まで全て食べられ、最高に旨い!

・第3回 網投げ

 増水のため中止となったが、漁期終了後に陸上で「大人塾番外編 網投道場」を開催した。大人塾以外の参加者もきて30名ほどでワイワイと網投げを来年に向けて猛特訓した。

・第4回 しゃくり漁

 しゃくり漁とは目視した鮎を竿の先についた針でひっかけて獲る漁法。難しいが非常に面白い。1回目と同じ藤の川で武内さんに習った。川に浸かって下流から上流に這うように鮎を探し獲る。1人でも獲れたらスゴイのだが、2人が成功!皆さん夢中になって川を這いつくばりながら楽しんでもらいました。獲った鮎はその場で塩焼きに。

・第5回 友釣り・ツガニ漁

 この回は盛りだくさん。川舟でカニカゴを仕掛けて、次の日にあげて、昼からは鮎の友釣りへ。どちらも十和の四万十川本流で、講師は計6名。ツガニ漁が橋本章央さん、松元昭夫さん、上野周一さん。友釣りは平野賢一さん、池田清さん、吉岡数久さん。

ツガニ漁は、市販のカニ籠を使用する。川舟を操船し、ポイントにカニ籠を投入。操船法は地域によって異なるが、ここは一番扱いにくい竿を使うため十和の漁師の操船技術は非常に高い。次の日、残念ながらツガニはゲットならず・・・。上野さんから秘密のストックを頂いた。

 午後からは気を取り直して、友釣りへ。十和地域は鮎釣りメッカである。友釣りは瀬で行うため初心者には危険な釣りだが、比較的入りやすい場所を選び、塾生2人に講師1名という体制で実施。生きた鮎(おとり鮎)をおとりとして泳がせる釣りのため、おとり鮎の扱いが重要。鮎の微妙な動きで川の中を想像する。鮎の動き、扱いに慣れる必要があり奥深い。塾生のほとんどが初めてにして鮎をかけることに成功!友釣りの醍醐味を経験できた。

・第6回 落ち鮎漁

 落ち鮎漁は中村の漁。12月1日、早朝6時半の煙火でスタートする。早朝から漁師たちが川に待機し、スタートを待つ。数週間前から場所取りをするほど楽しみな漁なのだ。大人塾でもその空気を感じるべく、一緒に鮎漁へ参戦!煙火とともに網が一斉に川に広がった。塾生たちも周りの漁師に交じって網を投げる。網投げが初めての塾生は近くの漁師に教わりながら和気あいあいと参戦した。漁師たちの間に入ったのは初めてのこと。この経験を締めくくりとして2021年の大人塾は終了した。

参加者からの声

 1年間終了後にアンケートで、参加者からの声をいただいた。

・自分が気に入った漁法を何度かやってみた。

・ふとした時に川を見るようになり、地元の人といろんな話ができるようになった。

・今後、生計をたてられるように来年は獲って売ってみる。

・複数のものを1回ずつやるのではなく、1つのものを集中的にやってみたい。

・趣味程度でできるときにやってみたい。こんな世界を知れてよかった。

・月1回では少ないからもう少し増やしてほしい。

満足度は非常に高く、今後何らかの形で川に関わりたいという意識を持ってもらうことができたと感じている。目標としていた参加者を継続につなげることができ、企画に手ごたえを感じた。

塾生の変化 

 2021年塾生の小竹花枝さん。小竹さんは支川目黒川沿いに暮らすバイタリティ溢れる移住者の一人だ。目の前に流れる川に関心を持ちつつも、川に対する恐怖心で関わることができなかった。2021年の大人塾には、以前から興味があった川漁が安全に習えると思い飛び込んでみたそうだ。

「川漁を一つずつ体験し、自分でも川の幸を獲ることができるのかとワクワクしました。特にしゃくり漁は川の中をのぞいて魚を観察するだけでも面白く、一番好きで、しゃくり用の竿を一から作りたいと思うほどです。川漁を体験したことで、自然と川に目線が行くようになりました。この岩には鰻がいそうだな、鮎が泳いでいるのかな、あの魚は何だろう・・・そうするうちに地域のおじさんおばさんとも川の話をするようになりました。昔の川のことや、うなぎの獲れるポイントなど、今まで話したこともないような話を一緒にすることができるようになりました。」

小竹さんの話を聞くと、目の前に流れていた川が大人塾を通して近い存在になり、暮らしの中に自然と入っているようだ。

他の塾生からも、同じような話を聞く。川漁の楽しさを知り生業にしようとし始めた人もいる。川は恐さもあるが面白さもあり、子どもを川に関わらせたいと親子で漁に挑戦する人や、学校教育の一環に川漁を取り入れた人もいた。

大人塾を経験した塾生たちは川を見る解像度が上がったのではないか。川は近いようで遠い存在だったが、一人一人の暮らしの中に川が溶け込み始めた。

(右)小竹花枝さん

バージョンアップした2年目

四万十川大人塾2022「川漁Ⅱ」

 昨年を受けていくつか変えたことがある。

・対象年齢を拡げる。

・特定の川漁をとことんしみ込ませる繰り返しの実践。

・宿題や予習を準備し取り組む意思をしっかり反映させる環境づくり。

・遊漁券の費用負担を参加者にお願いする。

2021年を活かすため、2022年度も川漁を実践することにした。また、卒塾後も、川に触れる機会を作りたいという想いから2021年の卒塾生をサポーターとして迎え、復習も兼ねて参加してもらうことにした。

まだ始まったばかりだが、漁法を固定したことや2度目の講師が多いこと、毎回の講座を塾生の適性に合わせて少しずつ変化させることでより深い学びができていると実感している。塾生の学ぶ楽しさやワクワクした気持ちがこちらにも伝わってきて毎回嬉しい。今後の塾生のみなさんの成長が楽しみで仕方ない。

テーマは「とことん」

課題とこれから

四万十川大人塾でやりたいことや目指したいところは多いが、それに向けての課題も多い。一つのテーマだけでなく並行して植物や魚、地理、歴史、食などなど様々なテーマで講座を開きたい。定員も増やし、年間を通した開催だけでなく単発の参加が可能な企画も開きたい。いずれ、観光商品として流域外の方々にも体験してもらえるようになればより定着していくだろう。そして、仕事につなげられるように。文化の継承をしながら、形として残せるものは記録し、大切なデータとして蓄積したい。それを現代に合った形で発信していくことも必要だろう。などなど、大人塾を企画する私たちも学びが多く日々成長中だ。

「四万十川とひとがともに生きること」を繋ぐために、大人塾を育てていきたい。

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