四万十川の日こと7月25日に、四万十川流域の文化的景観が選定から15年が経ったことを記念して、「四万十川流域文化的景観15周年記念シンポジウム~みんなで語ろう!四万十川~」を開催しました。

このシンポジウムは、四万十川流域の文化的景観に関わってくださっている専門家の方々や、コンサルタントの方々が有志で集まった、「四万十川流域の文化的景観選定15 周年記念シンポジウム実行委員会(四万十川応援団)」が主催となり、企画・開催されました。ご登壇いただいた専門家の方々、企画・運営してくださった方々、チラシ・トートバッグのデザイン・制作を担当してくれた方まで、全て無償で関わってくださいました。開催にご助力いただいた皆さまには本当に頭が上がりません。本当にありがとうございました。

文化的景観選定から15年が経ち、今も変わらず私たちの暮らしを支えてくれている四万十川。しかし、今「四万十川は日本最後の清流だ」と、自信をもって言える人は流域にどれくらいいるでしょうか。四万十川の環境や、私たちの川との関わり方、川への関心はここ数十年でずいぶんと変わってきたのではないか。文化的景観を通して、今の四万十川を見つめ直し、これからの四万十川との未来を明るいものにしていくきっかけにしたい。そんな思いで、シンポジウムを開催しました。

今回は、いつもお世話になっている福井恒明先生(法政大学デザイン工学部教授)、島谷幸宏先生(熊本県立大学特別教授)、小浦久子先生(奈良文化財研究所文化遺産部景観研究室客員研究員)という、豪華な先生方にもお集まりいただき、四万十川流域の文化的景観の価値や、これから四万十川とどう向き合うべきかをお話しいただきました。

当日は100名を越える方にご来場いただき、みんなで今の四万十川や、これからのことについて語り合いました。また会場外では文化的景観のポスターを展示し、ポスターを使った検定も併せて行うことで、文化的景観の理解を深めてもらいました。検定への参加賞として用意したオリジナル缶バッジやオリジナルハガキも好評で、モノが手元に残ることでこのシンポジウムや文化的景観を思い出してもらう、一つのツールになってくれるのではないかと思います。

また今回のシンポジウムを記念して制作したオリジナルトートバッグも販売。「RIVER LOVER 40010」のおしゃれなロゴが目を惹くデザインで、多くの方にご購入いただきました。(トートバッグの売り上げはシンポジウムの開催費に充てるほか、当財団に寄付していただくことになっています。)デザインしてくださったCRIKの池田さん、ありがとうございました。

プログラムでは、まず実行委員長の福井恒明先生(法政大学デザイン工学部教授)から開会のご挨拶をいただき、小浦久子先生(奈良文化財研究所文化遺産部景観研究室客員研究員)から文化的景観から読み解く四万十川の魅力について、島谷幸宏先生(熊本県立大学特別教授)から河川工学者から見る四万十川の魅力とこれからの川との付き合い方についてご講演いただきました。また、吉田尚人梼原町長、中尾博憲四万十町長、山下元一郎四万十市長にもご登壇いただき、四万十川への思いをぞれぞれお話しいただきました。後半のトークセッションでは、地元住民として四万十川漁業協同組合連合会の金谷光人組合長と、育つ会とおわの酒井紀子さんにも加わっていただき、福井先生にコーディネートしていただきながら、四万十川の現状を共有し、そのうえでこれからも四万十川と暮らしていくために、何をすべきかをみんなで議論しました。会場からもさまざまな意見をいただき、会場にいる全員が四万十川について考える、とても熱のあるシンポジウムになりました。

小浦先生の講演では、文化的景観とは、地域の自然や風土、そこでの人々の暮らしで出来ている文化財であり、暮らしは変化していくものなので、文化的景観も変化するものではあるが、その変化をどう折り合わせるかが大事だということ、四万十川には川と関わりながら暮らている風景が随所にあるんだということを、写真を使って説明していただきました。そのなかで、時々川との関係が混乱するときがあるとし、道路や擁壁等の整備は安全に暮らしていくためには必要ではあるが、環境との折り合いをどうつけていくか、そのヒントが風景の中にあるのではないかとのご指摘がありました。

また島谷先生のご講演では、四万十川のきれいさと豊かさは、四万十帯の地質と蛇行が深くかかわっていること、またご自身が30年前に行った清流のイメージに関するアンケート調査にて、清流の条件として、生き物が豊かであること等の自然的要素・安堵感があることなどの精神的要素・美しいなどの景観的要素が揃っている必要があり、そのうえで清流といえば何川かとの問いに対して、各都道府県別でみても四万十川が1位だったという素敵なお話しをいただきました。またこれからの川との向き合い方のヒントとして、ご自身が熊本県で取り組んでいる流域治水プロジェクトについて共有があり、「共創」をテーマに、産官学が連携して、雨庭や河川カメラの設置、放棄された湿地の遊水池化など、広い視点での取り組みを進めているとのことでした。

住民代表としてご登壇いただいた金谷さんのお話では、写真を用いてご自身が行っている調査と四万十川の現状をご紹介いただきました。ダム直下の河床が泥でおおわれている様子、河原が砂で目詰まりをして水が流れない様子などが紹介され、今の四万十川は清流のイメージとは程遠いショッキングな現状であることがわかりました。多くの方に四万十川の今を知っていただけたのは、とても意味のあることだったと思います。

また同じく住民代表の酒井さんからは、子どもたちが川で遊ぶ様子をご紹介いただきました。小さいころから川で遊び、増水した少し危険な状態でも(もちろん安全には配慮して)、滅多にない体験なので流木を使って遊んでみたり、自然とともにたくましく育つ子どもたちの様子に、この姿を残していきたいと思いました。川遊びの際には大人が付いていること、本流は危ないということなど、地域の人たちが昔から守ってきた川遊びのルールもしっかりと受け継がれているようで、その伝達が続いているのも素晴らしいなと感じます。

トークセッションでは、会場全体で四万十川の変化について意見交換をし、日常で感じているさまざまな変化について共有されました。堰ができてから環境が変わった、水量が減ってきた、砂利が減った、増水時に一気に水が出て一気に引くようになった、気候が変わった、ビニールハウスが増えたなどなど、時間が足りなくなるほど意見をいただきました。
島谷先生からは、これらの変化の全体像をつかむため、流域の地図上にどこでどんな変化が起こっているのかをみんなで書き込んで、可視化する必要があるのではないかとの指摘がありました。そこで決まった、次回シンポジウム。名付けて「流域合同大ワークショップ」です。流域全体で集まってマップ上に変化をプロットし、今の四万十川の全体像をつかみつつ、それを受けて、四万十川とどんな将来を描いていきたいか、多世代で議論することを目標にします。というところで、シンポジウムは終了。なんてポジティブな終わり方でしょうか。今回だけで終わらない、次につながるとっても前向きな会になりました。
また、四万十川流域で集落調査をしてくださっている菊地先生からいただいた、「四万十の自然は厳しい、だからこそ人々は丁寧に付き合いながら暮らしてきた。一方で技術はそれを楽にするために進んでいて、今は工学的な解決に慣れてきている。」との、的確な指摘も印象的でした。
コーディネートしていただいた福井先生、熱心な議論をしてくださったパネリストの方々、たくさんの意見を出してくださった会場の方々、本当にありがとうございました。

ご来場いただいた方々にも、とても前向きでいい会だったとの感想をいただき、流域大ワークショップを楽しみにしているとの声もいただきました。四万十川の保全に向けた動きがまた一歩前進した会になったのではないかと思います。この機運を来年にもつなげていきたいです。ということで、次回開催をお楽しみに!
改めて、ご助力いただいた関係者の皆さま、ご来場いただいた皆さま、本当にありがとうございました。